「台湾有事短期決戦」シナリオの変更
そしてもっとも大きく変えざるを得ないのが、台湾周辺および南西諸島正面で想定してきた作戦構想だ。これまで中国は短期決戦型のシナリオを重視してきた。その前提条件は安保3文書改定によって修正を迫られる。
日本の補給体制や弾薬の備蓄、継続して戦うための能力、基地の防護、部隊の分散展開といった体制が強化されれば、台湾有事の初動段階で優位を確保することは、これまでより難しくなる。
とりわけ重要なのは、戦闘がどの程度の期間続くのかという「時間の見通し」だ。戦闘が長引いた場合の補給の維持や、空と海の優勢をどこまで保てるか、さらに国際社会の反応がどう変化するかまでを踏まえた、より現実的な想定が求められる。
新体制は抑止力として価値を持つ
現状では、日本は反撃能力を「持つ」とは宣言したものの、いつ・どう使うのか、誰が判断するのかといった運用は曖昧であり、中国から見れば出方を読み切れない。
今回の改定でこれが明文化され、その線引きを探ることで、日本が「何をするのか/しないのか」はより明確になる。中国はそれを前提に戦略を組み直さざるを得ない。
重要なのは、変わるのが「対立の有無」ではなく「対立の質」である点だ。これまでの日中関係が孕んでいた曖昧で不安定な緊張は、能力と意思が見えた状態での構造的な対峙へと移る。
その結果、中国は日本の反応を織り込んで判断するようになり、誤算に基づく行動は抑えられ、軍事行動のハードルは高まる。つまり、新体制は日本の行動を縛るものではなく、「どこまでやるのか」を示すことで、抑止力として機能する基盤となるのだ。その意味で、今回の3文書改定は非常に大きな価値を持つといえるだろう。


