慎重論を広げるため、あの手この手

経済面では、半導体関連製品や精密機器の輸出手続きの遅延、現地での投資審査の厳格化、既存契約の見直し要求といった形で圧力をかけてくることも予想される。

これまでは中国の経済的圧力といえば、レアアース等特定の資源の輸出規制といった措置が中心だった。一方、ここでの狙いは直接的な打撃ではなく、企業活動全体の先行きを不透明にすることで、日本国内に慎重論を広げる点にある。

企業にとっては「予定通りに物が売れない」「投資の回収が遅れる」といった不安が生じ、結果として事業計画を見直す動きが広がりうる。こうした変化は、政府の判断にも間接的に波及するだろう。

そして情報面では、政府系メディア(人民日報、環球時報、英語版のChina Dailyなど)や研究機関、SNSを通じて、新体制に対する疑問や不安を広げる発信が行われるだろう。

ここでターゲットになるのは日本の“空気”だ。防衛政策をめぐる議論の流れや世論の受け止め方に影響を与えることが目的になる。したがって日本のSNSの反応や世論調査、報道の傾向を見ながら、強調する点や伝え方を調整しつつ進められるだろう。

日本国内の世論形成に介入する

こうした短期的な圧力と並行して、中国は長期的な戦略の再設計を進めると予想される。全面的な衝突は経済的損失や国際的孤立を招くため、基本的には回避される。その一方で、一定の緊張関係を維持しながら、自国の行動の幅を保つ形で対応していくはずだ。

まず、前掲の軍事的圧力と情報発信は長期にわたり継続されると考えられる。ただし、その性質は短期の場合とは異なってくる。

軍事面では、南西諸島周辺での活動を拡大したまま続けることで、当初は「異常事態」ととらえられたものを「日常」へと変えていく。結果として日本の警戒心が弱まり、対応に踏み切るラインを揺るがせるのが目的だ。

経済的圧力も軍事的緊張と組み合わせることで効果を持つ。企業活動に不確実性をもたせ続けることで、日本国内の慎重論を下支えする。

情報面では、短期の反発的な発信から、長期的な世論形成へと軸足が移る。防衛費増の財政負担や偶発的衝突のリスクといった論点を繰り返し提示し、「慎重であることが合理的だ」という空気をつくることが狙いとなる。