使わないと機能が衰えるのは脳も筋肉も同じ

一方で、こんな悩みにも皆さん共感するのではないでしょうか。

私のクリニックに通院している70代の女性の患者さんは、「最近、ものの名前がすぐに出てこなくなって……」と話していました。

会話のなかで「アレ」「ソレ」「あの人」「その人」といった言葉が増え、夫からも「名前が出てこないことが多いね」と言われるようになったそうです。

心配そうに電話をかける年配の女性
写真=iStock.com/seven
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本人は「もしかして認知症の始まりでは」と不安を感じていました。

その女性患者さんは、家にいることが多いとのこと。そうなると、他人との会話が減る。会話が減ると、言葉を探す機会も減る。脳は刺激を失う。テレビのニュースを観たり、新聞を読んだりしていますが、それだけでは知識のインプットが増えるだけで、前頭葉を十分に使うことにはなりません。

その結果、「アレでいいか」「ソレで通じるだろう」と相手(この場合は夫)の記憶に甘えて省略が増える。すると、脳もラクなほうへと流れ、働かなくなる。

つまり、使わないと機能が衰えるのは脳も筋肉も同じなのです。

脳を鍛える絶好のチャンスと捉える

ただし、年齢とともに言葉がすぐに出にくくなるのは、ある程度自然な変化です。問題は、その状態をそのままにしてしまうこと。

だから、私はその女性患者さんに伝えました。「名前が出てこない」と感じたときこそ、脳を鍛える絶好の機会だと。

最後まで思い出そうとする。具体的な言葉で言い直してみる。その小さな努力が、前頭葉を刺激し、脳の活性化を促します。

単なる記憶力の強弱だけで“若さ”は測れません。人とかかわり、言葉を発し続けられているか否か。それこそが若さを測るバロメーターなのです。

ですから、多少の「アレ」「ソレ」を気にすることはありませんが、その登場回数が思いのほか増えてきたら要注意。それは老化が進んだサインであると同時に、「もっと話しなさい」という脳からのメッセージでもあるのです。

1日中ボケーっとテレビを見て過ごし、人とほとんど話さない生活が続くと、脳は受け身になります。反対に、人と話せば、その分よく頭を使い、意欲も自然と増していく。

だからこそ、まずは人と話す機会をちょっとでも増やしていくようにしましょう。それこそが、認知症を遠ざける最も身近な生活習慣となるのですから。