難しい話題は「たとえ話」でくるんで伝える
精神科医という仕事をしていると、どうしても専門用語が多くなります。
前頭葉、側頭葉、ドーパミン、アミロイド……。何の解説もないまま、そのまま使うと「先生、難しいです」と言われてしまいます。
そこで、私がいつも意識しているのが「たとえ話」です。難しい話ほど、やわらかくくるんで聞き手に渡す。それが、私なりのアウトプットの工夫なのです。
たとえば、前頭葉の働きを説明するとき、私はこう言います。
「前頭葉は、会社でいえば社長です」
「感情や欲望など『これをやりたい!』と騒ぐのは社員」
「それに対し前頭葉は、『ちょっと待て、本当にそれでいいのか』と判断を下す」
「社長がしっかりしていれば、会社はうまく回ります」
「反対に社長がチャランポランだと、組織はバラバラになるでしょ?」
あるいは、脳の機能について。
「脳は預金口座と同じです。ほったらかしでは増えません」
「若いころに貯めた“知識の残高”がいくらあっても、それだけでは意味がない。引き出して会話や発言に使うという、いわば“投資”が大事。投資するからこそリターンがある、すなわち脳=預金口座の中身も増えるのですから」
難しい神経学の話をするより、このほうがずっと伝わります。
専門知識の説明は脳への刺激としても不合格
当然のことながら、人は抽象より具体のほうが理解しやすい。その点、たとえ話のよさは、相手の頭のなかに“映像”をつくれること。
「どう言えば、よりわかりやすく伝わるか?」
「相手の生活や立場に置き換えると、どんな表現がふさわしいのか?」
これは立派なアウトプットの訓練です。
たとえば、夫の頑固さを指摘する場合、「あなたは頑固だ」ではなく、「あなたは昔のカーナビみたいね。道を間違えても、自分が正しいって言い続けるの」と言えば、角が立ちにくいでしょう。しかも少し笑いも取れます。
つまり、たとえ話は相手を責めずにマイナス面を伝える知恵でもあるのです。
私はよく言います。
「難しいことを難しく話すのはカンタン。難しいことをやさしく話すのが、その人の本当の実力だ」と。
専門知識をひけらかすような説明は、単なる自己満足にすぎません。しかも、記憶しているものを、なんら吟味もせずそのまま話しているだけ。これでは、脳への刺激としても不合格です。

