「がんは特別な疾患ではない」
話を聞く、寄り添うことを強く意識している医師もいる。乳腺外科を専門とする菰池佳史だ。
菰池は1962年に兵庫県淡路島で生まれた。地元の高校から大阪大学医学部に進んでいる。大阪大学医学部附属病院、吹田市民病院を経て、大阪国際がんセンターに移った。がんを扱う病院にいましたけど、ぼくは、がんは特別(な疾患)だと思っていないんですよ、と穏やかな口調で言う。
「外科の主流が、がんの手術だったので、がんの患者さんに接することが多くなりました。でも、がんだけ、あるいは特定の臓器だけ診る、というのはダメだと思うんです。おこがましいんですが、患者さんのすべてを診る、ゼネラリストになりたかった」
乳腺外科のがん――乳がんを専門にするようになった経緯も菰池らしい。
「人を助けるという意味で救命救急に興味があった時期もありました。今でも目の前で人がばたっと倒れたら助けたい。しかし、自分を分析してみると、判断が遅いという欠点がある。救命救急の現場で、判断の遅れは許されない。
乳がんの治療は早いにこしたことはないんですが、比較的(進行が)ゆっくりです。そのため、患者さんと話をしながら治療を進めていくことができる」
診療科の垣根は不要
近大病院の教授となったのは、2012年のことだった。近大病院には臓器、診療科の垣根を跳び越える“腫瘍内科イズム”があった。
「ぼくも診療科の垣根は不要だと思っていました。最終的に何が患者さんのためになるのか。みんなの力を借りてやることが大切なんです」
患者と向き合うときは、何に困っているのか、を聞き出すことを菰池は重視している。
「初診の患者さんは1時間を越えることもありますね。まずは検査、診断して、どのような治療の選択肢があるのか説明します。現状の説明だけならばそんなに時間はかからない。
患者さんは、仕事を辞める必要があるのか、治療を受けながら、子どもさんの世話をやっていけるのか、などその先まで心配されている。逆の立場になったら、そうなりますよね。そういう話を聞くとどうしても長くなる」
がん相談支援センターの相談員が行なった聞き取りもその参考になる。
教授として学生を指導する菰池は、患者、そしてスタッフに敬意を持つよう教えている。
「ぼくの今があるのは患者さん、スタッフのおかげだと思っているんです。患者さんの生き方、考え方が自分に影響を与えてくれた」

