がんにおいては最初の治療が一番大事
その後、中川はアメリカの国立衛生研究所(NIH)の国立がん研究所(NCI)への留学を経て、97年に近畿大学医学部に入職。2004年、診療科を横断して、がんを扱う腫瘍内科の立ち上げに関わり、2007年に腫瘍内科教授に就任。2009年にがんセンターを立ち上げた。
「がんの特徴の1つは転移すること。1つの臓器で診察、治療が完結しない。内臓ならば消化器外科、肺ならば呼吸器外科、脳に転移したら脳外科。放射線科にも手伝ってもらう必要がある。がんの治療は、様々な分野の専門家が協力して最善の治療をしなければならない」
まだまだがん患者への支援が足りないと、中川は頭を振る。
「進行性の早いがんの場合、診断がついたらなるべく早く治療に移行しなければならない。がんにおいては最初の治療が一番大事。医療者は手順を踏んで、病気の説明、治療選択を説明します。
しかし、がんと告知された患者さんは動揺されて、冷静な判断が難しくなる。さらに医療用語にも馴染みがない。そこで患者さんが納得して治療法を決めるのは難しい。ご家族も同じ。誰にも相談できず閉鎖的になってしまう」
医師だけでは無理、だからこそシステマチックに患者さんと接することのできるがんセンターが必要なんですと言う。その窓口となるのが、がん相談支援センターである。
患者が死を受け入れるまでの5段階
社会福祉士の仲川紋子が、近畿大学病院に入職したのは、2018年のことだった。脳神経内科を経て、2023年から、がん相談支援センターに配属された。
「がん相談支援センターの仕事は大きく分けて3つあります。がんと診断されて、仕事、生活をどうしたらいいのかという経済的な相談。どのように過ごすのかという療養的相談。3つ目が、どこで最期を迎えるのか、残された時間をどう過ごすかになります」
スイス生まれの精神科医エリザベス・キューブラー・ロスは、著作の中で、患者が死を受け入れるまでに「否認」「怒り」「取引」「抑うつ」「受容」の5段階を辿ると書いている。ほとんどの患者は、自分ががんになると「否認」し、「怒り」を感じる。
「私たちは医師や看護師のように医療的処置ができるわけではありません。でも、相談できる場所が身近にあることは知ってほしい。お話を聞き、たくさん語ってもらうことで、その人となりを知ります。そして私たちに何ができるのかを見極めていく」
ある若い女性が乳がんだと診断された。もう治療は見込めないという。がん相談支援センターの相談室に、彼女の夫がやってきた。
「お仕事が忙しくて、それまで一度もお見えにならなかった。最初は、ぼくはここで何を喋ればいいのですかという感じでした」

