トランプ大統領は、中間選挙に向けて、インフレの沈静化はもちろんのこと景気浮揚を強く企図してきた。その一環として昨年には「トランプ減税」を成立させ、その効果が本格化するのを待っている状況だ。
そして、FRBに対しても利下げを進めるよう強い圧力をかけてきた。今年5月に就任予定のウォーシュ新議長のもとで大幅な利下げが実施され、金利低下による住宅投資や企業の設備投資の促進、さらには株価上昇による景気拡大を思い描いていたはずだ。
しかし、夏場以降の景気加速シナリオには暗雲が立ち込めている。現時点ではインフレへの懸念を背景に、FRBが安易な利下げには応じない姿勢を改めて明確に示し始めているからだ。
原油高がFRBのタカ派姿勢を引き出す
FRBにとって、原油高のような供給ショックは、インフレを押し上げると同時に消費や企業活動を冷え込ませる。つまり、金融引き締めでインフレを抑制すべきか、金融緩和で経済を下支えすべきか、どちらが適切かを見極めるのが難しい、典型的な「厄介なショック」である。
3月17~18日に開催されたFOMC(米連邦公開市場委員会)でも、FRBは「不確実性の高さ」を強調し、政策判断に慎重な姿勢を崩さなかった。では、現在のFRBは引き締めと緩和のどちらに傾いているのか。結論から言えば、ややタカ派、すなわち利下げの継続に慎重なスタンスが目立っている(図表2)。
パウエルFRB議長は3月のFOMC後の記者会見で、景気については比較的前向きな評価を示した一方、インフレに対しては明確な警戒感をにじませた。「原油高を簡単に無視すべきではない」「インフレの改善が見られなければ利下げは行わない」といった発言は、市場に対する強いメッセージとなった。
タカ派(利下げに消極的)の高官の中には利上げに転じることすら視野に入れる者もいる。クリーブランド連銀のハマック総裁は、インフレ懸念が強まった場合は、利上げに転じる必要性に言及している。
注目すべきは、これまでハト派(利下げに積極的)と見られていた当局者のスタンスにも変化が生じている点だ。ウォラー理事は当初、原油高の影響を「一時的」としていたが、足元ではインフレへの波及を強く意識し始めている。
現在のFRB内の空気は、明らかに「インフレ警戒」モードに傾いているといえる。
転機となった「2022年の教訓」
しかし、過去を振り返ると、今回のFRBの対応は必ずしも典型的ではない。1970年代のオイルショック後の原油高局面では、FRBはむしろ景気への悪影響を重視し、金融緩和路線に傾くことが多かった。

