「法学博士」「文学博士」の印鑑を偽造

ひとつは、田久保氏が“異形”とも言える人物だという点である。「学歴」を偽っているのは明らかなのに、「卒業している」と主張し続けた。当初は、辞職すると言ったのに、前言を翻して続投した。市議会が不信任案を可決した後の選挙でもなお、自分の正当性を訴えた。

また、報道されている起訴状によれば、「法学博士」や「文学博士」といった印鑑を偽造していたとされており、仮にこれが事実だとすると、犯意は明白だったと言わざるを得ない。「卒業証書」なるものを、かねて用意していたのではなく、伊東市長に当選してから作ろうとしたのだとすれば、自覚した上での犯罪と疑うほかない。

もちろん、どのような立場も自由である。彼女が、どんな考えを持とうが、どのような演説をしようが、いかなる行為をしようとも、誰にも止める権利はない。実際、昨年には、その信条や姿勢を評価されて、市長選挙に当選した以上、一定の敬意を示さなければなるまい。

運び出す捜査員 田久保前市長を強制捜査
写真=共同通信社
静岡県伊東市の田久保真紀前市長の自宅から押収物などを運び出す捜査員=2026年2月14日午後2時41分、伊東市

「東洋大学」の絶妙さがカギだった

とはいえ、疑惑を指摘されようと、市議会から追及されようと、選挙で落選しようと、まったく非を認めていない。その姿は異形と称するほかないのではないか。彼女のメンタルの強さには、あらためて感服するしかない。

加えて、これは偶然に過ぎないものの、東洋大学という大学名が、彼女にとってもカギだった可能性が高い。たとえば、東京大学であれば、実業家の堀江貴文氏のように堂々と「中退」と掲げたのではないか。「学歴」をネタにするYouTuberの高田ふーみん氏もまた「京大中退」を売りにしている。

東洋大学ほどには有名とは言いにくい大学だったらどうか。それでもまた、田久保氏にとっては卒業している、と強弁する意味は薄かったのかもしれない。この偶然も含めて、田久保氏個人が私たちを惹きつけていたのではないか。

けれども、この点、つまり、属人的な面だけなら、1年近くにわたって興味を呼び起こせない。もうひとつの要素、すなわち、この問題が図らずも突いた本質のほうが、重要ではないか。それは何か。