「国民目線」にシフトする天皇
徳仁天皇夫妻だけでなく、壇上にいた宮内庁次長、侍従長、女官長も、同時に向きを変えて日の丸を見上げたことを考えると、夫妻の行為は「皇太子時代の慣習のまま、つい振り返ってしまった」などというものではなく、意図的な行為として周囲の者にもあらかじめ知らせた上でのことだったと思う。
その光景を見ていた私は、サッカーやラグビーの「日本代表」たちが、胸に手を当てて君が代を聴くのと同じことをしているのだと感じた。「国家と一体」というよりは、「国民のモデル」として「公」に対して敬意を示しているように見えた。
令和の新しい天皇像がいつ示されるのかと期待していた私は、即位4カ月後に天皇夫妻が見せたこの変化を好意的にとらえた。「国家との一体化」から「国民目線」にシフトしようとする姿は、「個」の確立や多様性を尊重する現代的価値観にマッチするように思えるし、時代に即した新しい天皇像として望ましいのではないかと感じたからだ。
途絶えた「日の丸振り仰ぎ」
ところが、新天皇が示したはずの、この「国家との向き合い方」は、その後姿を消すことになってしまった。秋田県で行われた翌年、2020(令和2)年の「全国豊かな海づくり大会」は宮城県での開催が予定されていたが、新型コロナウイルスの感染拡大により延期になった。
1年遅れて翌2021(令和3)年に開催に至ったものの、天皇夫妻はオンラインでの臨席となったため、舞台上のモニターに姿が映し出されただけで、向きを変えるなどする機会はなかった。
翌2022(令和4)年は兵庫県明石市で行われ、徳仁天皇夫妻が臨席したが、この年からなぜか舞台上のレイアウトが変更されてしまい、「舞台上で向きを変える」という現象はまたしても機会を失ってしまった。
レイアウトが変更された結果、日の丸は大会旗などとともに舞台上に立てられることになり、もともと天皇の背後にはないため、夫妻は国歌斉唱の間、立ち上がって前を向いたままでも必然的に日の丸の方に体を向けていることになった。そして私の知る限りでは、その後ずっと、「全国豊かな海づくり大会」は、この変更されたレイアウトのまま行われている。
平成の時代を通じてずっと踏襲されてきたはずの舞台上の配置がなぜ急に変更されたのか、その理由は明らかでない。ことによると、「天皇が日の丸を仰ぎ見る」ことの是非がどこかで論議を呼び、取りやめになったのかもしれない。

