それでも続く科学と感情の対立
これはたしかに不愉快な主張かもしれないが、聖書の記述にかなっているという理由で、天動説にもとづいて精緻な物理学の体系を構築しようと思っても、必ずどこかで破綻する。それと同様に、「わたしたちの人生や社会に遺伝が大きくかかわっている」という当たり前の事実(ファクト)を無視して机上の空論(きれいごと)を積み上げても、やがて現実を説明できなくなって行き詰まる。
だが困ったことに、「リベラル」を自称する知識人やメディアは自らの前提を疑うのではなく、「現実が間違っている」としてさらに攻撃的になるのだ。
自分にとって都合のいい“夢”を見ているあいだも科学は進歩し、遺伝についての「不都合な事実」が暴かれていく。だとしたら、それを前提に「よりよい社会」「よりよい未来」を構想するしかない。本書は、そんな「生物学的に正しいリベラル」を目指す第一歩になるだろう。
なお、GWAS革命について日本ではキャスリン・ペイジ・ハーデンの『遺伝と平等 人生の成り行きは変えられる』(青木薫訳、新潮社)が先行して翻訳された。ハーデンはプロミンと並ぶ行動遺伝学の泰斗エリック・タークハイマーの弟子で、リベラルな遺伝学の立場を「反優生学」とし、遺伝の影響を認めないアカデムズムの「ゲノムブラインド」と、遺伝の影響を人種にまで拡張して差別的な主張をする右派の「優生学」を批判する。
それに対して、遺伝について単刀直入に(あるいは無神経に)ファクトのみを語るプロミンは「遺伝現実主義」とでもいうべき立場になるだろう。
ハーデンの『遺伝と平等』はプロミンへの(ある意味での)反論として書かれているので、両方を読まないとその主張をうまく理解できないところがある。その意味でも今回、河出書房新社が本書の翻訳を決断してくれたことの意義は大きい。


