クマ全体が凶暴化したわけではない
――そうした変化が起きた理由は特定されているのでしょうか。
正直に言えば「わからない」というのが今のところの結論です。クマというのは一頭一頭、人間的に言えば“性格”が違う。行動パターンも食べものも異なるため、「こうだったからこうなった」とは言いにくいのです。
もちろんクマの分布が広がり、生息数も増えて警戒心が下がった個体が増えた影響はあるでしょうし、ほかにもクマ特有のきっかけが何かあったのかもしれないのですが、検証ができていないのが実情です。
――凄惨な事件が起きるたびに、「クマ全体が凶暴化している」とも言われますが、実際そうした傾向はあるのですか?
すべてのクマが一気に凶暴化したかのような報道も一部のメディアではありましたが、日本にいる何万頭ものクマが一斉にガラッと変わったかといえば、そんなことはありません。しかも昨年の深刻な被害は北東北に集中しており、日本全体で同じことが起きたわけではない。そこは冷静に見る必要があります。
クマは基本的に単独で生きている動物ですから、森の中でクマ同士が「あそこに行ったらうまいものがあった」とか「人間は食べられる」といったコミュニケーションをとることはないんです。
ただ、学習能力が非常に高いので、ある個体が何かのきっかけで「集落に行けば、楽に食べものが手に入る」と学習してしまった場合、その個体の行動を変える可能性があります。そして、そういった特殊な学習や経験をしたクマが増えてきたのは間違いないと思います。
一度「おいしい思い」をすれば学習する
――学習はどういったプロセスで起きるのでしょう?
たとえばキャンプ場で生ゴミや人間の食べものが放置されていると、自然界にはない強い匂いがしますよね。クマからすると気になるわけです。おそるおそる行ってみて、食べてみたらおいしい上に高栄養だった。そうすると「これは食べものだ」と認識するし、「山の木の実を探して食べるより楽だ」と学びます。
そして「じゃあもっと探そう」となり、キャンプ場だけだったのが「同じ匂いがする」とホテルの厨房に行き、そこでも食べられたら「じゃあもうちょっと奥まで行ってみよう」と食堂まで進んでいき……となっていく。あるものと食べものが結びつき、そのほうが効率がいいと気づけば、どんどんそちらを選んでいくようになります。
クマは基本的に警戒心の強い動物ですが、警戒心と欲求のバランスがあるんです。人間が何もしてこないと、警戒心がだんだん下がっていく。欲求だけがどんどん高くなると、行動に歯止めがかからなくなります。
生ゴミのような高カロリーの人間の食べものは、クマからすれば果実などと違って、食べ尽くしてもいつの間にか補充されているものですよね。その経験から行動依存を強め、執着するようになるんです。
