粛清を歓迎する軍人たち

――一般庶民からすると、中国の監視システムは穴だらけで、電子決済システムを使っているのに、脱税や買春などの違法行為も横行しています。ただ、軍人や公務員は別世界というか、監視システムの焦点はむしろ中国共産党の内側に当てられていますよね。一定以上の職位になると、定年しても何年間かは海外旅行も禁止など、行動の規制は厳しい。

【周】軍の統制については、こうした統治者からの監視という抑圧する側の視点で語られてきました。ただ、私は抑圧される側の視点がより重要だと考えています。

なぜ、クーデターが起きないのかを抑圧される側の視点で考えること。それは「人民解放軍における、横のつながりの弱さ」と、言い換えて読み解けます。外部の人間が、現在の粛清を見ると、「人民解放軍が叩かれている」ように見えます。

しかし、実際には軍全体に横のつながりはきわめて希薄なのです。上司と部下という縦の関係は強固な一方で、別の部隊、別の軍種、別の地域との関係はきわめて薄い。共通の利益を持つ仲間という意識が薄く、むしろ向こうが粛清されたらこちらの出世のチャンスが増えるといった競争関係にあります。

加えて、クーデターを起こそうにも大義名分がないことも課題です。中国共産党の統治に代わる新たなイデオロギーを作ることができなければ、反乱を正当化することは困難です。

現在の人民解放軍は「過去最弱」

――反乱を起こせないのなら、粛清する理由もないのでは?

【周】横のつながりはないけれども、縦のつながりはあります。1人のボスに連なる部下たちの集合というピラミッドは作られる可能性があるわけです。そうしたものができる可能性がある時は芽を摘んでいく。

先ほど、軍の粛清は異常事態ではなく、共産党の統治システムにおける必然という話をしましたが、まさに縦のつながりによってどこかに強力なグループが生まれそうになると、それを間引くことが必然的な過程として権力維持に組み込まれていると言えるからです。

――今回の粛清は中国にどのような影響をもたらすのでしょうか。

【周】多数の将官が粛清された人民解放軍は現在、中華人民共和国史上で最弱の時期ではないでしょうか。かつての文化大革命では軍の長老たちが失脚しましたが、一方で混乱する中国社会を統治するために軍の存在感は非常に高まりました。

比較すると、現在の人民解放軍はトップだけではなく、実戦の指揮官レベルまで粛清されています。実際の軍事行動で指揮を執るのは五大戦区の司令官たちですが、多くが潰滅状況です。

天安門広場で行われた軍事パレード
写真=iStock.com/Babayev
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