イラン情勢が短期のうちに小康状態を取り戻さなければ、今回のエネルギーショックがグローバル経済に与える悪影響は、2022年に生じたロシア発のエネルギーショックよりも一段と酷くなる。ロシア発のエネルギーショックは、基本的にヨーロッパを中心にする出来事だった。グローバルにエネルギー供給が減る出来事ではなかったわけだ。

具体的に説明すると、ロシア発のエネルギーショックは、ヨーロッパがエネルギーの調達先を、ロシアから第三国にスイッチする際に生じたショックに過ぎなかった。一方のロシアは、中国やインドなどヨーロッパ以外の国々へエネルギーを供給したため、グローバルなレベルでエネルギーの供給が下振れするような事態にはならなかった。

ロシア発のショックとは大違い

しかし、今回のイラン発のエネルギーショックは次元を違えている。イランだけではなく、湾岸諸国の採掘施設や精油施設が破壊された。これではホルムズ海峡の事実上の封鎖が解かれたところで、エネルギー供給が直ぐに回復することにならない。グローバルなエネルギーの供給が大きく下振れすることは避けられない情勢となってしまった。

ホルムズ海峡、ペルシャ湾とオマーン湾および周辺地域の地図
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アメリカのドナルド・トランプ大統領は、イラン発のエネルギーショックは基本的にアジアの問題だと指摘している。当事者意識を欠いており不用意だと言わざるを得ない発言だが、この指摘は正しく、かつ間違いでもある。正しい面は、確かに日本を含めたアジア各国は中東産のエネルギーへの依存度が高いため、悪影響が直撃する点だ。

対する間違いは、中東産のエネルギーの供給の物理的な減少で、アメリカもまたグローバルなエネルギーショックの悪影響を免れない点だ。アメリカは原油の純輸出国だが、裁定取引を通じて、結局はアメリカのエネルギー価格も高騰し、インフレが加速することになるためである。自ずと個人消費が失速するため、アメリカ景気も低迷する。

原油高でアメリカは潤うのか

エネルギー不足に窮するヨーロッパやアジアがアメリカ産のエネルギーの輸入を増やすことで、アメリカが潤うといった見方もある。確かに、ヨーロッパの原油価格(ブレント)に比べると、アメリカの原油価格(WTI)は安いため、高騰した船賃を支払っても、うまみがある取引は成立する。しかし、アメリカが潤うという見方は楽観的過ぎる。

【図表】アメリカの貿易収支と原油価格
(注)原油価格はブレント (出所)アメリカ商務省センサス局、エネルギー情報局

アメリカの貿易収支の動きを原油収支と原油外収支とで分けると、原油収支の黒字は名目GDP(国内総生産)の0.2%程度に過ぎないことが確認できる(図表1)。アメリカは世界最大の産油国であるが、同時に消費国でもあるため、輸出余力はそう高くない。それに、仮に黒字が1%に膨れ上がったとしても、原油外収支の赤字は相殺できない。