お値段以上の実例

顧客は「支払ったコスト以上の価値」を求めます。価値とコストのギャップが「お得感」や「満足感」を生み出します。価格が低く、価値が高ければ「コストパフォーマンスが良い」と評価され、価格が高くても価値がさらに高ければ「プレミアム感」が生まれます。

いかに支払うコストを下げて、得られるベネフィットを最大化させるか?

ひとことでいえば「お値段以上」を作るのが、ビジネス成功の鍵です。

新規事業創出の専門家で有名な守屋実氏の著書『新規事業を必ず生み出す経営』(日本経営合理化協会出版局刊)には、印刷シェアリング企業の顧客単価を10倍に引き上げた例があります。

顧客は印刷業者と配布業者を別々に探す手間や時間がかかっていましたが、チラシの印刷後に配布まで提案し、以下のような価値提供と金銭以外の負担を軽減したものと思われます。

価値
●機能的価値

印刷と配布を個別に手配・調整することなくスケジュールを一元管理し、ミスや納期遅延のリスクを低減。

●経済的価値

業者検索、見積、進行管理の時間短縮=間接費(人件費/外注管理費)の削減。

請求と支払の一本化で与信、振込手数料、支払調整のコストを低減。

●体験価値

窓口の一本化により問い合わせ先、責任の所在が明確で、進行中の不安やストレスが軽減。

金銭以外の負担
●発注コスト

発注に要する時間、発注ミスのリスク、情報収集、内容確認の手間。

●契約コスト

契約手続き、更新、解約に関する手続きの手間。

●管理コスト

発注後のモニタリングの手間、複数の窓口に対応する負担。

顧客は金銭的なコストだけでなく、手間や時間のコストも削減でき、印刷だけの価格競争を回避し、高付加価値型ビジネスへと転換しました。

ほかに守屋氏が関わったドクターメイトは、介護施設の看護師に代わって同社の看護師が夜間オンコール対応を代行し、対応後のレポートの作成まで対応するサービスを提供して成功しています。以下のような価値提供と金銭以外の負担を軽減したものと思われます。

価値
●機能的価値

24時間オンコール受付と初動対応で、連絡~判断~指示~実行までのリードタイムを短縮。

●経済的価値

導入コストは年数10万円、24時間対応人材の確保に比べ安価。

●体験価値

24時間対応してもらえる安心感。

金銭以外の負担
●心理コスト

夜間緊急出勤がある可能性という看護師の精神的負担感。

●時間コスト

夜間勤務の時間的負担。

●管理コスト

オンコールがネックで常勤看護師が集まらない施設経営者側の採用負担。

24時間対応の人件費と比べて安価な場合があるだけでなく、オンコール待機の精神的負担を減らすことで離職率が低減。さらに、オンコールがネックで常勤看護師が集まらないという施設経営者の採用課題を解決しました。

決裁者である施設経営者の課題解決にフォーカスし、コスト、離職率の上昇、採用問題の三重の課題を同時に解決する点が評価されました。

だれに価値を届けるかもポイントです。決裁者でない人に、決裁者の価値ではないものを一生懸命に届けようとしていないでしょうか?

ちなみに、『新規事業を必ず生み出す経営』は1万4850円しますが、何度も増刷しているのはお値段以上だからでしょう。

お値段以上のバランスシート

お値段以上の構造を図にして把握してみましょう。

たとえば、まわりのお店で提供している500円のモンブランと、賞味期限10分で1日限定100個で毎回行列ができる1000円のモンブランを比較してみましょう。賞味期限10分の1000円のモンブランは、次の価値を提供しています。

●美味しいという「満足感」(機能的価値)
●1日100個という「限定性」(体験価値)
●食感が変化するため、賞味期限が10分という「ストーリー」(体験価値)
●行列を並んでやっと食べることができたという「達成感」(体験価値)
●インスタ映えする「高揚感」(体験価値)
●インスタグラムをシェアし、自己承認欲求を満たすことができる「幸福感」(体験価値)

一方で、コストとして、行列待ちという金銭以外の負担があります。行列待ちの負担をどう感じるかは、人によって異なってきます。「並ぶのであれば、別のことに時間を使ったらよかった」という機会費用を感じることもあれば、「並んで食べることができたからこそ満足した」という自己正当化バイアスが働くようなケースもあります。

仮に、賞味期限10分1000円モンブランの行列が2時間待ちとして、行列待ちの負担(コスト)を2000円以上に感じる人と、2時間待っても食べたいと思っており行列待ちの負担を100円と感じる人がいたとしましょう。それぞれが、仮に当初支払い許容額として1200円のイメージを持っていたとしましょう。両者を比べると、図表2になります。

【図表2】お値段以上のバランスシート
出所=『起業の方程式

行列待ちの負担が大きいと、たとえ支払い許容額(1200円)を価格(1000円)が上回っていても、お値段以下になってしまいます。

逆に、実際に支払う価格と金銭以外のコスト(行列待ちなど)を上回れば、お値段以上になります。お値段以上の価値と感じてもらえれば、またリピートをしてくれたり、インスタで紹介してくれたり、友達を店に連れてきたりして、広告費をかけずにCAC(顧客獲得コスト)を最小化することもできるのです。