これからどうロシアと向き合うべきか

【池田】ただし、ロシア人の全てが「家長」プーチンの政策を受け入れているわけではありません。2022年の戦争開始直後に、一度だけ会ったことのあるロシア人の女性がFacebookに「私はこの戦争に反対である」との意思表明を投稿したのは、私にとっても大きな出来事でした。

ロシア国内では、世論調査では6割前後の人たちが戦争を程度の差はあれ支持していますし、ロシア人の友人ともかなり喧嘩になりました。戦争について言及したら、「お前に何の関係があるんだ。これは自分たちの問題だ。首を突っ込むな」と言われたこともあります。

しかし、戦争に反対しているロシア人もいるのです。「ロシアの声を聞け」という際には、こうした人たちの存在も忘れてはいけない。そして私自身の立場としては、ロシアの歴史や文化を愛し、その価値観を学びつつ、蛮行や侵略に対しては批判していく必要があると考えています。

――これから日本はどのようにロシアと向き合っていけばいいのでしょうか。

【池田】政治的には非常に難しい状況です。経済制裁については2014年のクリミア併合を受けて始まったものが、2022年の本格的開戦後に岸田政権のもとで強化されていますし、高市政権は殺傷能力のある兵器をウクライナに供与することも含め、軍事支援を検討する方向に進みそうです。

ウクライナ戦争は一過性の厄介事ではない

【池田】ロシアの人たちにとって、高市政権は安倍政権の対ロ外交路線を取るのではないかとか、伝統的家族観を重んじる立場だから我々の価値に近い、だからロシアに融和的なのではないかという期待もあったのですが、どうもそうではなさそうだとわかった。前駐日大使のガルージンは、高市政権が対ロ制裁を解かないことについて不満を述べています。

一方で、研究者の交換制度は始まっていますし、文化交流も引き続き行われています。より踏み込んだ経済制裁は実施しつつ、ロシアとの交流のチャンネルは残しておく。この二本立てを続けていくことが重要なのではないでしょうか。

日本は欧米と全ての歩調を合わせる必要はありませんし、西ヨーロッパではロシアから今もエネルギーを購入している国もあって、ロシアとの関係を全面的に遮断しているわけではありません。日本もエネルギー安全保障の観点に立って、ロシアからLNG(液化天然ガス)を輸入していますね。

池田嘉郎『悪党たちのソ連帝国』(新潮選書)
池田嘉郎『悪党たちのソ連帝国』(新潮選書)

日本にとってロシアは隣国であり、中国や北朝鮮との関係もある。どの国にも当然に独自の立場がありますから、それを踏まえたうえで、国際法を守るという基本的な視点を持ちながら交流は続ける。他国から何か言われたら、きちんと自国の事情と立場を説明する。現在の国際事情を鑑みると、今後は対ロシア外交だけでなく、あらゆる場面でこうした対応が求められるようになるのではないかとも思います。

要するに、ロシア・ウクライナ戦争は一過性の厄介事ではなく、これからの世界は「国際規範を形だけ守りながらも、それぞれが自分の都合のいいように解釈して自国のための外交や政策を行う」ようになっていくという前提のもと、「では日本はどうするのか」を考えなければならない。

NATO各国も現状にどう立ち向かうべきかを各々が模索しています。日本もロシア・ウクライナ戦争をテストケースとして、自国の対応を模索していくことが重要になるのではないでしょうか。

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