ロシアは「一つの大きな家族」

【池田】さらに言えば、欧米の態度がどうあれ、プーチンは国内に団結力を取り戻したいと考えていましたから、メディア規制や自国民の監視などはやはり進めたでしょう。

また、プーチンは2000年代から愛国教育に力を入れ、1990年代に一度崩壊したロシアの伝統的な家族共同体的なまとまりを立て直すことに力を入れてきました。ロシアは一つの大きな村のようなもので、その範囲にはロシアの感覚ではウクライナも含まれています。

ロシアとウクライナはその家族共同体的な意識の中では一体不可分のものなので、「西側に接近する」「西側がウクライナに手を突っ込む」ことは、ロシアにとっては許せない。むろん、だからと言って侵略を正当化することはできませんが。

こうしたロシアの家族共同体的な意識は、中国の華夷秩序とは異なります。

中国の場合はあくまでも別の国、別の主体として中国に恭順を示すことを求めますが、ロシアの場合は「一つの大きな家族」。くわえて、おおざっぱに言えば欧米のように、まず個人があって、集まって組織を作るという発想ではありません。

ロシアの場合は、まず集団があるという認識です。だからこそ、家族の一員、集団の一員が勝手によそに移ることは裏切りであり、許容しない傾向があります。

ソ連時代から続く「ムラ社会」

――だから国内でも粛清が起きる。プーチンのことをヤクザやマフィアに例える人もいますが、いわゆる義兄弟的な感覚が社会のベースになっているんですね。

【池田】ロシアの伝統的な権力観念においては、強力な権力が中心にいて、時に強く、時に厳しく、時に暖かく家族を庇護して団結する。一番強いものは家長であり、今ではプーチンが家長。その感覚はソ連時代の書記長も同じです。

――ソ連の歴代領袖の来歴や政策をまとめた池田先生の『悪党たちのソ連帝国』を読むと、そのことがよくわかります。ソ連共産党はシステマチックな制度設計がされている組織だとばかり思っていたのですが、実際にはかなり属人的で、権力移譲のルールがあいまい。後継者も政策も、「その人が選んだから」という形で進んでいますね。

【池田】まさに本書で言いたかったのはその点です。「家族共同体」では、身内だけですべてを決めることこそが正しい。「任期は4年だから、4年たったら選挙で決めましょう」というやり方は、家族共同体の理念とは合わないのです。

ソ連時代は共産党自身が共産主義の先進性を宣伝するために、英米や資本主義よりも進んだ制度だという自画像を発信してきました。しかしそれはあくまでもそう見せたい自画像であって、実際には相当のムラ社会。そこがわからないと、ソ連を理解することはできません。そして、「あいつが言う以上は、俺はかばう」というような論理が先行する社会である点は、帝政期もソ連期も、そして現在も共通しています。