優秀な人ほど陥る「流暢さの罠」
「うまく話そう」とするあまり、肝心の「伝えること」を見失ってしまう。この罠は、真面目で優秀な人ほど陥りやすい。
以前、とある東大出身の一流企業の営業マンから相談を受けた。彼は完璧によどみなく話しているのに、聞き手から「AIっぽい」「話が入ってこない」と言われてしまうという。「なぜ、自分より不器用に見える同僚のほうが、心に響くプレゼンができるのか」と悩んでいた。
そこで私は、彼にこうアドバイスした。
「15分のプレゼンの中で、本当に伝えたい言葉を『3つ』だけ選んでください。そして、その3つの言葉をどう話すかだけを考えて本番に臨んでみてください」
後日、プレゼンを終えた彼から報告があった。
「今までで一番の手応えだった。自分はこれまで『何も伝えようとしていなかった』ことに気づいた」と話してくれた。彼は見事に、伝えるためのコツを掴んだのだ。
劇団四季の「母音法」で大変身
「助詞が上がる」「文字の羅列を追う」といった2つの罠を避けた上で、簡単にできて即効性のある話し方の技術をお伝えしたい。
私は学生時代、滑舌が悪かった。地道な発声練習で少しずつ改善してきたのだが、ビジネスパーソンに「毎日練習してください」というわけにはいかない。
そこでおすすめしている練習法が「母音法」だ。
この母音法は、劇団四季がセリフの練習で行っていることでも有名で、私自身、学生時代にアナウンサーの師匠から教わり、一気に上達した感覚をつかんだ。日本語の音は、母音(あいうえお)に支えられている。この母音を意識して発声するだけで、一音一音の輪郭がくっきりし、声に張りが生まれる。
たとえば「こんにちは、本日はよろしくお願いします」という一文。この母音だけを取り出すと
「オ・ン・イ・イ・ア、オ・ン・イ・ウ・ア、オ・オ・イ・ウ・オ・エ・ア・イ・イ・ア・ウ」
となる。まずはこの母音だけで発声する。知らない人が聞いたら、何をふざけているんだろう、という意味不明な文字列の発声練習だ。
次に、その母音を意識しながら、元の言葉を発音する。それだけで、発声がずいぶん変わり言葉が聞き取りやすくなる。さらに、母音を意識することで一文字一文字を大切に話すようになり、緊張で早口になってしまうことを防ぐといった効果もある。私の経験を踏まえれば、この母音練習により、プレゼンやスピーチの評価が10倍になるといっても過言ではない。
最初の一文だけでいい。プレゼンの冒頭だけ、これを練習してから喋りだしてみてほしい。するとその後の喋りも、自然と引き締まってくるのだ。

