何十頭ものカンガルーを識別できるか

顔の記憶のスキルアップをしたければ、好き・嫌いでもいいので、相手がどんな人だったかを、よくよくイメージすることが大切です。一緒にいて得をしたとか、とても楽しかったとか、すごく嫌な目にったとか、なんでもいいので感情的なエピソードとともに覚えることがコツです。そのためにはまず、わずらわしいと思わずに、どろどろとした人間社会の中に自ら入り込むことが第一なのかもしれません。

ある日、顔を覚えるヒントになる事例をテレビで見ました。飼育している何十頭ものカンガルーの顔と名前、その親族関係をすべて頭に入れている飼育員の姿を見たのです。

素人目からすると、カンガルーの顔はどれも同じ顔に見えて、それぞれの区別すらつきません。現に別の飼育員は、暗記術を駆使し覚えようとしてみたり、語呂合わせを使ったり、果ては芸能人の顔にたとえて覚えようとしたりしていましたが、なかなか学習が進まないようでした。

すべてのカンガルーを見分けた飼育員

山口真美『美人はそれほど得しない? ルッキズムの科学』(ハヤカワ新書)
山口真美『美人はそれほど得しない? ルッキズムの科学』(ハヤカワ新書)

ところが、その方は飼育員の中でただ一人、すらすらとすべての個体の名前を言い当てていたのです。しかも親子関係まで把握していて、よその親のお腹の袋に入りこんでいる子どもを見つけ出しては取り出し、追い出されてしまった本当の子どもを探し出すことも容易にできました。

語呂合わせや芸能人にたとえるなど、とにかく記憶することだけに専心すると、かえって記憶は遠のきます。この記憶の良い飼育員はむしろ、カンガルー社会の中にフィールドワークのように入り込むことによって、自然と顔と名前が頭に入っていったようです。つまり、その動物のいる「社会の中に入り込まない」限り、たくさんの顔の習得はできないのでしょう。

現代は膨大な顔情報に触れる時代だと話しましたが、本当にその人を知っているかどうかとは別の話です。ここには人の顔と社会性を考えるうえでの示唆があるのではないでしょうか。

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