顔覚えが得意な「スーパーレコグナイザー」
こうした人たちがいる一方で、人一倍優れた顔を見る能力を持つ「スーパーレコグナイザー」と呼ばれる人もいます。長い期間、会っていない知り合いの顔を、雑踏から探し出せる彼らの能力は驚異的です。大学卒業からすでに四半世紀以上も会っていない同級生を、新宿駅の雑踏の中に見つけることもできます。
顧客の名前や職業をすべて頭に入れているベテランのホテルマン、何十人もの逃亡犯の顔を頭に叩き込む「見当たり捜査員」など、顔を覚えることに特化した仕事もあります。顔を見る能力は、このように振れ幅が大きいのです。
このうち見当たり捜査員は、一度も会ったことのない犯人の顔写真をリストにして、100人ほども記憶し、街中で見つけ出して検挙するのが仕事です。写真でしか見たことのない犯人を雑踏の中から見つけ出し、逮捕するのです。
写真だけに頼って顔を覚えるのは、難易度が相当高いです。たとえば顔を覚えるのが上手な商店街のおばさんは、お客さんと接しながら、その人の持つ特徴的なしぐさや表情をうまいこと引き出して記憶しています。そこには表情もあるし、その人が持つしぐさの癖もあります。もちろん、いろいろな向きの顔を見ることもできます。
中でもしぐさや表情は、その人らしさを的確に表現する大切な情報です。こうした現実の顔と比べ、ある瞬間の顔を切り取っただけの写真に含まれる情報量は圧倒的に少ないのです。
会ったこともない人の顔を覚えるコツ
犯人に一度も会ったことのない見当たり捜査員は、見知らぬ犯人の顔写真を見ながら、必死にその犯人像や性格を思い描いて覚えると聞きます。写真だけを使って、初対面の人となりをうかがい知るのは難しいことですが、その顔を持つ人物を憎んだり愛したり親しんだりと、感情的なつながりを作り上げながら、それぞれの顔を持つ人物像を評価し覚えるのでしょう。
重要なことは、顔を覚えるためには、それぞれ個人に対する感情的なつながりや評価が必要だということです。顔を記憶するのは、英単語や歴史の年号を覚えるのとは違います。無意味でも覚えられる記号的な記憶と違って、顔には意味が必要なのです。
強い人か優しい人か、どんな仕事をしているのか、顔の記憶にはそんな情報がくっついています。そこにいたるには、脳の情動的な活性化、すなわち感情や評価、動機づけに関わる脳の部位を巻き込むことが必要です。つまり、人や社会に興味があって学習する気力、顔を覚えてうれしいという自らの報酬がないと、たくさんの顔は覚えられないということです。

