便利な道具が記憶力をダメにする

立ち上がった瞬間に何をするか忘れてしまうのは、記憶の回路が持続的に働かないということです。運動系脳番地と記憶系脳番地が一緒に働くと、どちらかを忘れる。つまり、2つの脳番地が連動するときに記憶系が外れ、忘れやすくなるということです。

現代人は特に、同時に複数の脳番地をうまく働かせることができません。その理由は、手を使って書かなくなったからです。

「昨日会った寺島さんの名前はなんだっけ……カズシゲ? 『カズ』は『一』だったかな、『和』だったかな」と考えているあいだ、頭のなかではさまざまな漢字やそれとつながるイメージが浮かび続けるわけです。

もちろん、スマホなどで「てらじまかずしげ」と打って「寺島和茂」と変換したほうが早いでしょう。スマホが漢字を集めてくれるほうがラクです。

ところが自分でエンピツ書きしている間は、「寺」「島」「和」「茂」を、脳内の情報から選び出しているわけです。そのとき何が起こっているのでしょう。

「寺島の『寺』は私が生まれた寺泊の『寺』だな、『島』は近隣の中島小学校の『島』か……」「『和』は従妹の和子と同じ字だし、『茂』は、吉田茂と同じ字だな。あ、長嶋茂雄とも同じだ」など、さまざまな記憶が想起されるわけです。

AIやスマートフォンに頼る現代人は、記憶系脳番地を使う作業をほとんどやめてしまいました。昔の人は電話番号や地図などを暗記していました。わからないことはすぐスマホで検索する生活を続けていると、人類は記憶力を著しく失ってしまうのではないかと私は危惧しています。

たとえば、現代では50代、60代が認知症の早発だといわれています。しかし、今の子どもたちのように、生まれたときから便利な外部ディスクを多用しているような人たちは、もっと早く30代、40代で症状が出るかもしれません。使っていない脳番地は劣化しやすく、すぐ老化するからです。

記憶の回路を長く使わないという習慣によって、立ち上がった瞬間に何をするか忘れてしまう――そういったことがクセにならないよう、脳のコンディショニングが必要なのです。

会話中すぐに言葉が出てこない

「ええと、ほら、あれ。なんだっけ、ほら、あれ」という経験はおありでしょうか。会話中に言葉が出なくなるというのも、記憶の回路が劣化している認知症の症状で見られます。

認知症のように記憶力が病的に落ちているのと、習慣的に使わないために落ちているのとでは違いますが、現象としては同じようなあらわれ方をします。

本当に病的なものならさらに進行しますが、習慣的に使えていないのであれば、脳コンディショニングすることで回復できます。

会話中に言葉がすぐに出ず、つかえてしまうというのは「現象」です。その裏にある原因は、相手の言っていることが理解できなくなっているからです。

言葉は、理解系で十分理解したうえで、記憶系から情報を引っ張ってきて伝達系を経由し、運動系の口を動かしてしゃべるというメカニズムです。とっさに言葉が出ないということは、これらの脳番地のいずれかが劣化しています。

悩む男性
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最近の情報機器は、ボタンを押せば解決するため、何も考えなくても事が運びます。しかし、使う脳番地を限定していく行為でもあります。

使っていない脳番地を強化しなければ、脳がどんどんゆがんだり、クセが強くなって劣化してしまうのです。