私は昔、自分の部下が外回りに行くとき、何時に出発して何時に帰って来たかをすべて記録したことがあります。
「同じ量の仕事をこなして、これより早く帰って来られたら、飯をおごってやる」
するとみんなタダ飯を食いたい不純な動機で、早く帰ってくるようになった。不純な動機がいかにパワーを持つかの一例です。
武蔵野がここまで大きな会社になれたのも、「羽振りよく飲みたい」という私の不純きわまりない動機がエンジンになっています。私は武蔵野の売り上げが7億円だったころも、毎晩夜の街に繰り出していました。しかし7億の会社の社長では、それほど思い切った金額を使えない。
それでもあるとき歌舞伎町の中でも1、2を争う値段の高い店に行ったら、颯爽とした身なりの男性が、高そうな酒を無造作に飲んでいる。これはただ者ではないと思い、店の人に小声で「あの人はどういう人なの?」と聞くと、「あの方はある会社を経営なさっている方で、毎晩いらしているんですよ」と言うではありませんか。
その店はゴージャスで雰囲気もいい代わりに目の玉が飛び出るほど高い。当時の私は月に1回がせいぜいです。そんな店に毎晩のように飲みに来る人がいることに驚きました。私もああいう人になりたい。そのためには会社を大きくしなければいけない。上には上がいるのだから、7億円くらいで満足していてはダメだと心の底から思いました。
おかげで今の私は、かつて目標としたその人に近づいたと勝手に思っています。その人は1人で毎晩でしたが、私は店に47人と偶然にも赤穂浪士と同じ人数で行ったことが1度あります。
何事もそうですが、背伸びをしなければ、絶対に能力は上がりません。多少の無理をしなければ、時間の使い方もうまくなりません。
放っておくとわれわれは時間の奴隷になってしまいます。
「これくらいかかる」ではなく、「これくらいで終わらせる」という考え方に改める。「仕事に時間を割り振る」のではなく「時間に仕事を割り振る」癖を社員につけるのも、社長の大事な仕事と言えるでしょう。
※本連載は『絶対に会社を潰さない 社長の時間術』(小山昇著)からの抜粋です。