台湾が恐れる「今そこにある危機」
他方、当の台湾において最も現実感を持って語られているのは、「グレーゾーン活動」の脅威である。すでに現実に起きている日常的な空域侵犯、サイバー攻撃、情報操作などが、明白な戦争行為を伴わずに社会の自由と自己決定を浸食し続けている。
台湾にとって中国による台湾統一とは、ある日突然の上陸戦ではなく、じわじわと進行する「現状変更」の連続のなかで静かに訪れるものかもしれないのだ。
中国のグレーゾーン活動とは?
中国が台湾に対して行っている圧力は、いわゆる「戦争」とは呼べないものである。だが、平時でもない。その狭間にある曖昧な領域――これこそが、「グレーゾーン活動」と呼ばれる新しい戦争の形である。
グレーゾーン活動とは、明白な軍事衝突に至ることなく、領土・領空・領海等の主権を侵害したり、それらの領域で法執行・行政活動を行ったり、サイバー空間等の新たな領域で、相手に圧力をかけ、行動の自由を奪い、望ましい戦略的成果を獲得しようとする戦術である。
「台湾上空を飛ぶのは国内問題」
米国を代表する戦略シンクタンクであるランド研究所の2023年の報告書によれば、中国はこの分野において「巧妙で執拗なプレイヤー」であり、台湾への統一を軍事侵攻によらずに達成しようとする長期的戦略の一環として、グレーゾーン活動を多段階的に構築している。
中国による台湾に対するグレーゾーン活動の代表的な手段が、台湾の防空識別圏(ADIZ)への人民解放軍の戦闘機・爆撃機の進入である。
2020年以降、中国は台湾西南空域への進出を「日常化」させており、一時期は年間1000回を超える規模で軍用機を飛ばしていた。
この行為は、実際の戦闘を意図するものではない。目的は、台湾軍の即応力を疲弊させること、そして「中国の軍機が常に上空にいる」という心理的な圧迫感を植えつけることである。
同時に、国際社会に対して「台湾は中国の一部であり、その上空を飛ぶのは国内問題だ」という事実上の主権主張を繰り返し可視化することにもなっている。

