中国にとって有力な4つの戦略

台湾が中国の支配下に置かれる道筋は、単純な「戦争か、平和か」という二択では語れない。中国は明確な武力行使を避けつつ、台湾を徐々に吸収していく戦略もとりうる。

そこで本章では、中国がとりうる戦略シナリオを以下の4つに大別する。

1)平和的統一

政治的合意や経済的誘因、台湾政界への統一戦線工作などを通じて、事実上の統合を達成する。

2)グレーゾーン活動

領域侵犯や輿論よろん戦・心理戦・法律戦、そして経済制裁など、軍事一歩手前の手段を組み合わせ、台湾の主権を徐々に侵食していく長期戦。

3)封鎖

海空の制圧を通じた「準戦争」状態。補給線の遮断によって台湾を経済的に孤立させ、時間をかけて交渉・降伏に持ち込む。

4)全面侵攻

解放軍が本島に上陸し、実力によって台湾政府を崩壊させ、政権交代を実現する。

これらは独立したシナリオとして発生する可能性もあるが、複数のシナリオが並行して進められたり、複合されたり、シナリオ間で段階的に移行したりすることもありうる。例えば「グレーゾーン活動→封鎖→限定侵攻」といった「階段的エスカレーション」が、各地で実施されているシミュレーションにおいて現実的なものとして議論されている。

紫禁城、北京、行進する中国兵
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日本では「全面侵攻」を警戒

興味深いのは、台湾危機に対するシミュレーションの焦点が、地域によって大きく異なるという点である。

日本では、「全面侵攻」シナリオに最も関心が集まっている。南西諸島の地理的脆弱性、台湾との近接性、さらには在日米軍の存在などを考慮すれば、この傾向は地政学的に極めて自然なものである。読者にとっても、「中国が攻めてくる」、「自衛隊や米軍はちゃんと守ってくれるのか」という恐怖心や心配はわかりやすいのではないだろうか。

一方で、ワシントンの主要シンクタンクでは、むしろ「封鎖」シナリオへの関心が突出している。

これは、中国が台湾を即時に占領するのではなく、まず海空から包囲して物資・情報・経済を遮断し、じわじわと屈服に追い込むというアプローチへの警戒感の反映である。

米国にとって、この封鎖シナリオはわかりやすい軍事侵攻ではないため、極めて厄介な課題を突きつけてくる。ただでさえ、海外への米軍派兵、軍事介入のハードルが年々高くなっているなか、議会や世論に対して、米軍による軍事介入の正当性を説明する政治的ハードルがより高くなるシナリオなのだ。

つまり、全面侵攻なら米国としては単純な軍事介入がしやすいが、封鎖であれば対応しづらい。だからこそ研究の必要があるということだろう。