塩分の摂りすぎがピロリ菌を定着させる
では、なぜ塩が胃がんに関係するのだろうか。
一つは、高濃度の塩が胃の粘膜を直接刺激して、慢性的な炎症を引き起こしやすくなることである。胃の上皮細胞はダメージを受けるたびに修復を繰り返しているが、こうした状態が長く続くと、細胞分裂の過程で遺伝子変異が生じるおそれがある。
もう一つは、塩分の高い環境はピロリ菌の定着や病原性に影響を与えると考えられることだ。ピロリ菌感染が持続すると、慢性胃炎や萎縮性胃炎が進行し、その過程が胃がん発症の土台となることが知られている。塩分摂取は、この一連の過程を助長する因子の一つなのだ。
さらに、塩蔵食品には保存の過程で亜硝酸塩などの発色剤が含まれることがあり、胃酸と反応して発がん性が疑われているN‐ニトロソ化合物を生成する危険性も指摘されている。
「液体の糖分」には要注意
もちろん、塩は「悪」なだけではなく、生命維持に不可欠なミネラルなのだが、がん予防の観点からは、「塩分のとりすぎを避ける」ことは、確実にリスクを低下させる生活習慣の一つなのである。WCRF/AICRの報告でも、「塩分および塩蔵食品の摂取を最小限にすること」が、胃がん予防の確立した推奨項目として挙げられている。
ただし実践的には、「減塩しなくては」と構えすぎず、味覚を薄味に慣らすことが第一歩である。漬物や味噌汁を「もう一口減らす」「出汁や香辛料で旨味を補う」といった小さな工夫が、長い年月のうちには確かな差となる。食塩の量を意識して減らすことは、胃がんだけでなく、高血圧や脳卒中の予防にも直結する。
がんリスクを高める食事
③糖
塩分と並んで、近年注目されているのが「糖分」の問題である。WCRF/AICRには「糖分の多い飲料や高糖質の超加工食品の摂取は、体重増加と肥満を介して複数のがんリスクを高める」と明記されている。肥満は少なくとも13種類のがんと関連しており、糖分の過剰摂取は、その背景にあるおもな要因の一つと考えられる。
とくに清涼飲料水や加糖コーヒー飲料などの「液体の糖分」は、満腹感をもたらしにくく、総カロリー摂取を容易に増加させる。その結果、インスリン抵抗性が高まり、血中インスリンやIGF‐1(インスリン様成長因子)が上昇しやすくなる。これらは細胞の増殖シグナルを活性化し、がんの発生を促す経路として知られている。

