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日本電産が社員に求める語学力

実をいえば、ある程度の職位から上は英語だけでは不足である。

日本人の部長が本社からハンガリー工場へ赴任するとしよう。現地へ行っても工場幹部などホワイトカラーとなら英語で話し合うことができる。しかし、われわれメーカーにとって最も大切なのは製造現場のほうだ。現場の従業員はふつう現地語しか話せない。となると、彼らの心をつかむには、日本人がハンガリー語を習得するしかないのである。

このことを踏まえ、私は10年夏、将来の管理職登用に関して次のような方針を打ち出した。

「15年より、課長代理以上に昇進するには日本語以外の1カ国語の習得を条件とする。20年からは、部長級以上に昇進するには日本語以外の2カ国語の習得を条件とする」

この方針に沿って、若手社員はいま英語の勉強に励んでいる。問題はもう1つの外国語のほうだ。

私の考えでは、本業を犠牲にしてまで語学学校へ通う必要はない。では、どうするのか。

英語をマスターしたら、次は30~35歳の時点で言語別に専門地域を割り当てる。

「君は今後、中国で活躍してもらう」「君はヨーロッパ、とくにドイツを頼む」という具合に担当国・地域を設定し、その後、現地へ送り出して実地のビジネスを経験させるのだ。

外国で2年も過ごせば、いやでもその国の言葉が上達する。これは日本で語学学校へ通うよりも確実な勉強法ではないだろうか。

もっとも、外国語は「ツール」にすぎないことも忘れてはならない。1番大事なのはあくまでも自分の専門分野だ。単にコミュニケーションの都合があるから外国語というツールが必要なだけで、それを用いて何を話すかが重要なのだ。

現に私は外国人と話すときには業界最高レベルの通訳を使う。たとえばエマソンからモーター事業を買収したときには、モーター事業の幹部やエマソン本社のCEOを前に通訳を介してプレゼンテーションを行った。買収のための提示金額が最高ではなかったにもかかわらず、12社もの競合の中から当社を選んでもらえたのは、そのときの演説が相手の心を打ったからだと思っている。