変化の激しい時代こそ「感情」に目を向けて
2020年代は、AI時代に入り、危機の時代におけるSELが再注目されています。
パンデミック、戦争、環境危機、デジタル化など、「VUCAの時代(volatility:変動性、uncertainty:不確実性、complexity:複雑性、ambiguity:曖昧性……などの特徴を持つ、将来の予測が困難な時代)」といわれる中で、不安・孤立・対人関係の分断に対するレジリエンスを高め、感情リテラシーや「心の安全」を支える力を育てるためのSELの意義が再認識されています。
こうした社会情動的スキルへの関心は、近年、日本でも着実に広がりつつあります。その中心にあるのが、本書のテーマである「感情リテラシー」の考え方です。これまでにも繰り返し述べてきたとおり、自分の気持ちや他者の気持ちに気づき、それを理解し、言葉にして伝えたり、適切に調整したりする力のことを指します。
私自身も、子どもたちの感情の発達と社会性の形成に焦点を当て、ソーシャル・エモーショナル・ラーニング(SEL)の日本型モデルの構築に尽力してきました。
特に注目されるのは、児童期における「感情語彙」の獲得の重要性を明らかにした研究です。感情をうまく表現できない子どもは、困りごとを周囲に伝えることができず、いじめや暴力、不登校などのリスクが高まる可能性があることを示しています。
日本の学校文化に根ざした、感情教育プログラムの開発と普及にも取り組んでいます。さまざまな教材を活用した授業実践が、各地で広がりつつあります。
感情表現を育てるためのさまざまなツール
たとえば、気持ちの語彙を増やすために、絵本を見ながらいろいろな場面で用いられる語彙に触れることができます。
「感情の温度計」や「気持ちの温度計」と呼ばれる教材もあります。「怒りの温度計」「悲しみの温度計」で、怒りや悲しみの強さを考えたり、どんなシーンでその強さの感情を抱えやすいかなどを学ぶことができます。
同じエピソードでも、人によって感じる気持ちの強さが違うことや、ちょっとしたことで気持ちが変わること、入り交じった気持ちを持つことに気づくこともできます。怒りの背景にはじつは悲しみが強くあったり、ということがわかるのです。
「ムードメーター」という教材もよく使われます。
もとはイェール大学の感情知能センターで作成されたものです。横軸は心地よさ、縦軸は気持ちの強さを示しています。
気持ちのゾーンは4つにわけられ、右上のゾーンは、エネルギーが強く心地よいので、嬉しい、わくわくなどの気持ち、エネルギーが弱く心地よい右下のゾーンには、のんびり、おだやか、などの気持ちが入ります。
エネルギーが強く心地よくない左上のゾーンには、イライラ、ムカつく、などの気持ちが入り、エネルギーが弱く心地よくない左下のゾーンには、がっかり、悲しいなどの気持ちが入ります。



