防弾ベストを着けた相手には歯が立たない
そうした訓練不足を補うため、2004年に陸上自衛隊を復興支援のためにイラクのサマーワに派遣するとき、当時の第2師団長・河野芳久陸将は私に「普通の自衛官が一生かかっても撃つことのない弾数を派遣前の訓練で撃たせた」と言った。激しい戦闘では付着する火薬カスのために一日で銃が作動不良になるそうだが、派遣前の射撃訓練では、そのレベルまで達しなかったという。
今一つの懸念は警察官が携行している拳銃の威力だ。
紀州犬の事件では、おそらくニューナンブM60(ミネベア製)が使われたと思われる。この拳銃は1960年に採用され、1999年に製造を終了しているが、今なお日本警察の主力拳銃の座にある。
アメリカのスミス・アンド・ウェッソン(S&W)のM36をモデルにした38口径(9ミリ)の拳銃で、有効射程距離は50メートル、上級の射手が撃った場合、25メートル離れて直径5センチの円内に弾丸を集めることが可能とされており、5発が装填されている。
もちろん、熟練した射手ならニューナンブでも1発で相手に致命傷を与えることは間違いないが、問題は平均的な警察官の技量だ。
6~8発を発射してやっと紀州犬を倒すことができたということは、うまく頭部に命中させることができなければ、衣服の下に拳銃用の軽量の防弾ベストを着けた相手には歯が立たないということだ。38口径の拳銃弾は、それくらいの威力しかないことも知っておく必要がある。
自動拳銃を打った経験者は200人中1人
テロリストは、日本の警察官など意に介さないで堂々と犯行に及び、場合によっては撃たれながらでも警察官に向かってくるかもしれない。
陸上自衛隊の特殊作戦群や警察のSATといった特殊部隊はともかく、平均的な警察官の能力を高める手立てはただ一つ、撃って、撃って、撃って、撃ちまくって、射撃の腕前を高めることしかない。
さらに、ニューナンブや更新中の拳銃に357マグナム弾を使用できるようにするか、より威力の高い拳銃を装備すれば、それなりの対テロ能力の向上を期待できるだろう。
マグナムなどというとダーティーハリーの映画を思い浮かべる向きもあると思うが、あんな大型マグナム(44マグナム)はともかく、アメリカのハイウェイパトロールの交通警官でも357マグナムを持っているのだから、日本の警察も考えてみてもよいのではないか。
以前、ある警察管区の警察署長クラスを集めた会合で尋ねたところ、自動拳銃を撃ったことがあるのは200人中1人、見たことがあるのは10人ほどだった。これほど銃器が身近でない警察組織は世界でも珍しいのではなかろうか。


