人質を傷つけずに犯人だけ狙撃する方法

私のささやかな自衛隊経験からしても、距離が200メートル以内であれば、犯人の頭を狙えば頭を、心臓を狙えば心臓を撃つことができる。

問題は銃弾で、背後に人質がいると犯人を貫通するため撃てない。だからSATチームは四方八方に展開し、人質と犯人が重ならない位置にいる狙撃手が撃つことになる。遠距離からの狙撃と異なり、このようなケースではカメラマンが最適の位置を求めてこまめに移動する発想が狙撃手にも必要となる。

もちろん狙撃の体制を取っておいて犯人の説得を試み、投降させることができれば、それはそれでよく、SATは黙って撤収すればよい。このときのバスジャック事件は、1回説得してダメなら直ちに狙撃、というケースだっただろう。

私は、事件発生直後から「解決策は狙撃しかない。発生から3時間で解決できなければ不合格」と主張していた。危機管理の専門家であれば、そう即断できるような単純で初歩的な事件だったからだ。

ライフル弾がフロントガラスで跳ね返る?

ところが、警視庁の最高首脳の1人は「小川さんは評論家だから、テレビを見て好き勝手なことを言っている……」と言ってきた。東大を出たキャリア官僚だったが、私は「何を言っている。俺が少年自衛官出身だということを知らないのか」と叱った。15〜16歳の頃、私は200メートル先の標的を、それも裸眼で外すことはなかった。

あきれたことに、この警視庁首脳は「弾丸がバスのフロントガラスで跳ね返ってしまうから狙撃できなかった」と真顔で言った。しかし、そんなことはあり得ない。

私が使っていたアメリカ製のM1ライフルは、有効射程500メートル。100メートル離れたところからの貫徹力は厚さ13ミリの鋼鉄製の装甲板を打ち抜くというものだった。警察が備えている狙撃用のライフルで撃てば、もちろんフロントガラスはないも同然だ。こんなド素人が指揮を取っていては、ヘタをすれば第一線の警察官は命を落としかねないと思った。

事件後、警察が口にしたのが「容疑者にも人権があるから、それを考えると安易に狙撃はできない」という言い訳だった。

もちろん容疑者も含めてすべての人間には人権がある。しかし、容疑者が人質の人権を蹂躙じゅうりんしており、その人質の1人が既に殺されているときに、容疑者と人質の人権を同列に扱うというのは、自分たちの不作為を正当化しようとする責任逃れとしか言えない。

きちんとした人権意識のある国であれば、人質の人権を最優先し、場合によっては容疑者を狙撃するのは当たり前の話なのだ。