「物語」というフレームがなぜ必要なのか
ここで一つ、重要な問いがある。
スリルを求めるなら、なぜわざわざ「トップガン」という看板にこだわるのか。純粋にアクロバット飛行を体験すればいいではないか、と。
しかし、「物語」というフレームこそが決定的に重要なのだ。
人間の脳は、単なる刺激よりも「意味のある刺激」に強く反応する。同じ4Gの重力加速度でも、「アクロバット飛行を体験した」と「マーヴェリックと同じ訓練を乗り越えた」では、脳内で分泌されるドーパミンの量が違う。物語は、体験に「意味」を付与する装置なのだ。
数十万円から数百万円、時に1億円を超える金額を投じて、物語の「主人公」になる。肉体を極限まで追い込み、リスクを引き受け、自らの人生を「編集」する。
どのレベルが正しいということではない。それぞれの人が、自分の価値観と経済力に応じて、最適な「没入度」を選べばいい。
ただ、一つだけ確かなことがある。
現代の富裕層にとって、「消費」はもはや満足をもたらさない。彼らが求めているのは「体験」であり、それも受動的な体験ではなく、自らが主導権を握る能動的な体験だ。
モノを買う時代から、コトを買う時代へ。そしてコトを買う時代から、「自分自身を書き換える」時代へ――。
価値観は大きな変化を遂げている。

