最下層兵でも上司に改善を求める米陸軍

そう思えた背景には、米陸軍工兵学校で学んだ哲学があります。

工兵は、「戦うエンジニア」。戦場で橋を架け、地雷を除去し、仲間が前進する道を切り拓く――そんなプロフェッショナル集団です。

その任務は戦場にとどまらず、災害復旧、公共インフラの整備、環境保全といった国家事業にも及びます。アメリカ社会の骨幹と言える場所には、常に彼らの技術と汗が刻まれてきました。

この工兵のプロフェッショナルを育てるのが、アメリカのミズーリ州フォート・レオナードウッドにある米陸軍工兵学校です。世界各国から選ばれた工兵の精鋭たちが集い、戦術、技術、リーダーシップを徹底的に鍛えられます。

「多様性は、組織の強さの源である」

米陸軍では、最下層の二等兵であっても、上官に堂々と改善を求めます。「現場のリアルな声」が組織を進化させると信じているからです。

戦場で危険を感じた兵士は、その日のうちに掲示板に情報を共有し、すぐに装備や訓練が改善されていく。この「現場発の改善のサイクル」こそ、巨大な組織を生かし続ける新陳代謝なのです。

「生理用品とオムツを避難所に置いてください」

私には、忘れられない経験があります。

自衛隊で災害派遣に出たある日、私は生理の初日でした。

トイレに行けない状況を想定し、オムツを履いて対策本部に詰めていました。洪水で屋上に取り残された生徒、崖崩れ、孤立した地域、急病人。深刻な状況に、不眠不休で対応していました。

通常であれば、そんな混乱のなかで言うことは憚かられるのですが、私は男性ばかりの会議でこう言いました。

「生理用品とオムツを置いてください。対策本部と避難所に」

一瞬、空気が止まりました。

けれども、すぐに理解と共感が広がり、現場は動きました。結果として、被災直後の早い段階で授乳室が設けられ、衛生環境が整い、多くの女性や乳幼児が守られたのです。

誰も悪意があったわけじゃない。ただ「気づけなかった」だけです。

でも、もし私が黙っていたら――救われなかった誰かがいたかもしれない。

そのとき私は確信しました。自分の声は、自分だけのものではない。誰かの命綱になることがあることに。

こうした現場発の改善は、戦場や災害現場だけの話ではありません。私たちの職場や暮らしのなかにも息づいています。

1人の気づきが、製品やサービスを変え、仕組みを変え、社会を変えていく。「声を上げる」という行為そのものが、社会を進化させるのです。