対人関係をよくするには、どうしたらいいのか。アドラー心理学の研究者として知られる岸見一郎さんは「自分の“理想”から現実の相手を引き算してはいけない。まずは相手をそのまま受け入れることが、良好な関係を築く第一歩になる」という――。

※本稿は、岸見一郎『誰にも支配されずに生きる アドラー心理学 実践編』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。

母は居間で息子を叱る
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子どもや部下を叱ることをやめるには

叱ることは対人関係をよくしないということはわかる。だけど、目の前にいる子どもや部下を叱り飛ばしてしまう。なぜなんだろうというところで止まって、前に進めなくなってしまう人が多い。

そういう人たちが次の一歩を踏み出すためには、具体的な場面を思い浮かべて、どうしたらいいか考えないといけないと思っています。でも、本ではそういうことをあまり書けないのです。

アドラーは精神科医でしたから、症例を本でたくさん取り上げています。理論だけ書いてあってもわからないけれども、彼が自分で診察した患者の症例を読むとよくわかる。でも、私にはそれができないのです。守秘義務があるので、実際自分が関わった症例をそのまま本に載せるわけにはいかないからです。

ですから、私の場合は息子を例にあげることが多いです。私がしばしば講演の中で息子の話をしているのを彼は知っているので、出演料をよこせみたいなことをいわれたこともあります。

本で具体的な事例を出すのが難しいという話をしようとしたのではなく、理論を理解しようと思ってもあまり意味がないといいたかったのです。生活の中での事例に即して考えなければなりませんし、実践できなければ意味がないという話をしたかったのです。

たった一言で対人関係は変わっていく

少しでもできると思ったことを、生活の中で実践してみるといいです。例えば「ありがとう」といってみようと講演会でよく話しますが、ありがとうといえばいいのだなとわかり、ありがとうといってみると、それだけで対人関係が明らかに変わります。

あるいは、叱らないという話を聞くと、そうなんだと理解できる。そうすると、それまで何も考えないで叱り飛ばしていた人がためらうようになります。こんなふうに叱ってはいけないと反省するようになる、あるいは、叱る回数が減ります。それだけで、対人関係が明らかに変わります。

けれども、もう少し長い時間で見た時に、即効性があると感じない人も多いかもしれません。むしろ、私たちは即効性を求めて子どもや他の人を叱ってきたのです。しかし、叱ることは即効性はあるけれども、有効性がない。

そんなふうにしても、子どもたちも部下も少しも変わらないでしょう? 叱ってもダメなのだという経験をしてきた人であれば、叱ることに代わる方法があると知った時、即効性はないけれど有効性があることを理解できます。