曹洞宗の禅僧である南直哉(みなみじきさい)師の見方も興味深い。ジョブズは「禅の教えを自分の中でアレンジし、自分の生き方に資するよう咀嚼、吸収したと思う。必要なものだけを取り込み、必要じゃないものは取り込まなかった。彼は本質的には知野さん(乙川師――引用者注)の信者でも道元禅師の信者でもない。彼独自の生き方があった」というのだ(『スティーブ・ジョブズ100人の証言』朝日新聞出版)。

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また駒澤大学学長の石井清純氏は、ジョブズのトレードマークである黒いタートルネックのシャツと曹洞宗の大本山である永平寺の黒い作務衣とを結びつけている。作務衣とは本来、僧侶たちが作務(掃除などの作業)を行うときに着るものだ。石井氏はジョブズの黒いタートルは、自身の「行動」を禅の実践の一部として担保するものだったと見る。「その『黒衣』をもって、新たなパフォーマンスを発揮する製品を開発すること、それが彼なりの禅的自己実践だったように思えてなりません」(『禅と林檎』宮帯出版社)。

こうして見ていくと、彼は禅をベースにさらに自分なりの解釈と実践を積み重ねることにより、新たな宗教をつくってしまったのではないかとすら思えてくる。数々の製品はいわば彼の経典だ。ジョブズ亡きいま、わたしたちはそこから何を読み取り、つけ加えることができるだろうか。