収入が限られたいま、サウジアラビアは期限の迫るプロジェクトを優先せざるを得ない。2030年の万国博覧会や、2034年のサッカー・ワールドカップなど、大型プロジェクトが次々と控えている。サンデー・タイムズ紙は、ワールドカップだけでも11のスタジアムを建設する必要があると指摘する。
サウジ政府は今年の財政赤字予測を約650億ドル(約10兆円)へと、当初の2倍以上に引き上げた。ハーリド・アル=ファーレフ投資大臣は、「ギガプロジェクトが政府から多くのリソースを奪っていた」と認めている。
砂漠にゼロからインフラを造る
課題は石油価格だけではない。建設現場に視点を戻せば、貧弱なインフラが問題として立ちはだかる。砂漠など辺境の地での建設は通常、都市部よりもはるかに高コストになるためだ。
ザ・ラインの場合、資材を世界中から調達し、砂漠の只中まで輸送し、何のインフラもない現地で組み立てる必要がある。計画始動時点で大きな港はなく、道路も電力も不十分だ。周囲に人はほとんど定住しておらず、労働力の調達も課題となる。
大量の資材を運び込むには、まず港湾設備、道路、電力網といった基礎インフラへの巨額投資が必要となる。フィナンシャル・タイムズ紙は、こうしたコストがすべて、最終的な建設費に上乗せされると指摘している。
全170kmと発表された総延長のうち、第1フェーズとして20のモジュール(16km)が予定されていた。だが、肝心の出だしとなるフェーズ1の規模は、4度にわたり段階的に縮小。現時点ではわずか3モジュールが計画されているのみだ。つまり全170kmのうち、2.4kmまでしか目処が立っていない。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙は当面の目標として、最初の1モジュールを2034年のサッカーワールドカップに間に合わせるよう急いでいると報道。このモジュールの上部には大会会場となるスタジアムが建設される予定であり、これ以上の遅延は許されない。
ザ・ライン自体が居住環境を悪化させる
インフラ不足のみならず、砂漠での定住化を目的とした巨大開発自体、そもそも無謀だとする分析もある。
ザ・ラインの建設が進む砂漠は、人間が生活するには極めて厳しい環境だ。英ガーディアン紙の分析によると、サウジアラビアの環境条件は、
同紙が近年の科学研究10件以上を分析したところ、サウジアラビアの平均気温は1979年から2019年の間に2.2度上昇した。世界平均の上昇率のほぼ3倍の速さだ。
アブドラ国王科学技術大学などによる2023年の報告書は、世界の気温が3度上昇した場合、「持続可能で健康的な社会の将来的な存続可能性に深刻な影響を及ぼし、サウジアラビアに存亡の危機をもたらす可能性が高い」と結論づけている。

