数カ月後、やはり不自然な点を感じ取ったのだろう。兵士は離婚を申請した。これを受けて今年2月、裁判所は婚姻は無効であるとの判決を下し、異議申し立て期間を1カ月と定めた。

判決から2週間後、兵士はクルスク州の前線で戦死する。女性が婚姻無効への異議を申し立てたのは、その翌日のことだった。

正教会の結婚式の王冠
写真=iStock.com/eugenelucky
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ウォール・ストリート・ジャーナルによると、一時的に女性が補償金の受給資格者となった。当然、兵士の遺族たちは納得がいかない。母親は訴訟を起こし、女性が短い結婚期間中に不貞を働いたほか、息子の死から金銭的利益を得ようとしたと訴えている。

兵士の死から1カ月後の4月、女性はインスタグラムに兵士とアパートでじゃれ合っていた動画を投稿。「私たちがお似合いだとまだ疑う人がいる?」と綴り、結婚生活は偽装ではなかったと主張した。

6月、女性は裁判で敗訴。補償金の受給権を剝奪された。

ウクライナ侵攻がロシア社会を歪ませた

相次ぐ事例を受け、ロシア議会では「黒の未亡人」を規制する法案の検討が進む。2025年夏、ブリャンスク州の裁判所は、結婚を詐欺的なものと認める判断を下した。

だが、法による対処には限界がある。ロシアンライフによると、下院のニーナ・オスタニナ議員は「偽装結婚は法的問題ではなく道徳の問題だ。社会的非難が唯一の抑止力であり、道徳を立法で規定することはできない」と語る。結婚した2人が真に愛し合っていたのか、単純に結婚期間だけでは判断できない現実がある。

一方、不正が横行する背景にあるのが、前線での深刻な兵士不足だ。ロシア当局は入隊契約への給付金を引き上げ続けており、高額の死亡給付金に目がくらむ事例が多発。結果として詐欺や搾取を助長しているとの見方がある。

ラジオフリー・ヨーロッパなどが伝えるように、プーチン政権は国内で兵士の配偶者を称え、「英雄の妻」と呼ぶイメージ戦略を推進してきた。プーチン氏や与党議員らは兵士の妻や母と定期的に面会し、親政府メディアがその様子を伝える。

だが「黒の未亡人」の横行により、こうしたプロパガンダに水を差す結果を招いている。国に尽くして命を落とした兵士の妻という立場は、一概に美談と捉えることができなくなっている。兵員が不足する今、プーチン政権としては兵士やその妻を美化し、志願者を募りたい。しかし、大量動員には給付金を引き上げざるを得ず、それにより結婚詐欺が横行。こうなっては兵士やその妻の神話性が損なわれるという、皮肉な状況が生じている。

ウクライナ侵攻によって、法で裁くことのできない新たな歪みがロシア社会に生まれている。

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