城下をめぐる遊覧船は必須
小泉八雲旧居の東側に武家屋敷が公開されている。江戸中期に建てられた上級武家の屋敷で、一時は塩見小兵衛という武士が住み、異例の昇進を遂げたので、この人物を讃えて通りが塩見縄手と呼ばれるようになった。松江藩の家老であったこの塩見家こそ、セツの実母である小泉チエ(北川景子演じる雨清水タエのモデル)の実家だった。
ただし、チエが生まれた幕末期には塩見家の屋敷は、塩見縄手を東方に進み、城山東堀川沿いに南に進んだ先の、現在、島根県県民会館が建つ敷地内にあった。さすがは家老屋敷というだけあり、敷地は2667坪もあった。
城山東堀川の南端、大手前駐車場のところから堀川めぐりの遊覧船が出ているので、ぜひ乗ってほしい。すでに述べたように、松江城は内堀から外堀までとてもよく残っているので、かなり広範囲にわたって松江の城下町を船でめぐることができる。冬でも炬燵が備わっているので、寒さを感じずに済む。
この船は最初に内堀を一周する。前述の新橋をくぐっていったん西に進むところでは、新橋の先のすぐ左側の稲垣家の跡をチェックしたい。続いて、塩見縄手を水上から眺めることができる。その後、三の丸(現島根県庁)の西側の堀を南下し、南側の京橋川を経由して東側の米子川に入る。
ハーンがビールを買った店
この米子川の少し東側に、セツの実父母である小泉家(「ばけばけ」の雨清水家)の、没落以前の屋敷があった。「ばけばけ」で描かれたほど広大ではなかったとはいえ、敷地面積は581坪で、セツの養家である稲垣家の3倍の広さだった。
米子川など、かつてより狭くなった堀も一部にあるが、城下町をめぐる堀がこれだけ残され、船で広範囲にわたってめぐったのちに出発点に戻れる、という事実に感動を覚える。
遊覧船で通った京橋川のすぐ北側、島根県庁とのあいだには尋常中学校跡がある。ハーンはこの尋常中学校と師範学校の英語教師として、明治23年(1890)9月から1年余り、教鞭をとった。その尋常中学校の教頭が、「ばけばけ」で吉沢亮が演じる錦織友一のモデルの西田千太郎だった。
一方、京橋川の南側の、宍道湖に面した東西に細長いエリアは、江戸時代には町人の居住区だった。そこから松江大橋がかかっているが、そのすぐ手前は、松江に着いたハーンが最初の宿にした富田旅館(「ばけばけ」の花田旅館)の跡で、現在も大橋館という旅館が建っている。
近くには、ハーンがビールを買った山口卯兵衛商店もある。「ばけばけ」で柄本時生演じる山橋才路が営む山橋薬舗のモデルである。明和9年(1772)の創業で、まちかど博物館にもなっている現在の建物も明治中期に建ったものだから、まさにセツとハーンの時代の空気を味わえる。

