「安心感につながって留学を決断できた」

江夏氏は夢を見せる無意識を「自分のことを最も知る“もう一人の自分”」と言い換える。自分を温かく見守ってくれて、未来に向けてのサポートをしてくれる存在であるというのだ。

先のゲシュタルト療法に出合い、江夏氏は日本鋼管を辞めて、全くなじみのない世界、ゲシュタルトセラピーの研究所に転職をした。30代に入ってすぐのことだった。

さらに数年後、再び大きな岐路に立つ。日本にあるゲシュタルト研究所の所長を継がないかという提案と、米国に留学して臨床心理学を学びたいという自分の本心。その狭間で悩んでいたのだ。結婚をして、子どもが生まれたばかり。米国ではなんのツテもない。現実的に考えれば、日本の研究所の所長を継いだほうがいいが……。

江夏氏は「アメリカに留学するのは、私にとって正しい選択でしょうか」と夢に質問をし(ノートに記し)、眠りについた。

すると次のような夢を見たそうだ。

<揺りかごのようなところから真っ逆さまに落ちる。すると黄金の川の流れがあり、そこをプカプカ浮かんで流れていく>

夢を見た瞬間、「黄金の川は、選択すべき人生の大いなる流れで、アメリカ留学がそれに沿うことだと直感しました」と江夏氏が言う。

「揺りかご」は守られているイメージ、すなわち「日本の研究所」。「そこから飛び出ても流れていけるということが安心感につながって留学を決断できた」と話す。

枕と毛布、ベッド、夜の星空と月
写真=iStock.com/Alones Creative
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「巨大なカニ」が……

さて私(筆者)の体験を話そう。以前の取材で江夏氏から「悩みごとや迷うこと、ストレスに感じていることなどがあったら、夢に質問をしてみるといい」と聞いていた。8年前のことだ。当時『サンデー毎日』編集部で記者をしていたのだが、私は日本で最も売れている週刊誌『週刊文春』で記事を書きたいという気持ちが芽生えていた。そこである日の寝る前、「飛び込み営業をし、『週刊文春』で記事を書く道でいいか?」と紙に記して枕元に置いた。つまり夢に質問するかたちで眠りについた。

夢に出てきたのは「巨大なカニ」だった。

それだけでストーリーなど一切ないのだが、目覚めてすぐに「夢 カニ」で検索をした。一番最初に目についたのは、「ゴーサイン」だった。今、改めて「カニの夢」を検索すると、また違う結果が出てくるのだが、当時は「チャレンジ」という言葉が目に飛び込んできて、私にはピンときた。そのように夢の解釈については、自分が納得のいく、「腑に落ちることが最も大切」と江夏氏は話していた。

その日、“夢のカニ”に励まされるかたちで、私は何のコネもツテもない文藝春秋の代表に電話をかけた。『週刊文春』編集部にはなかなかつながらなかったが、諦めずに電話をかけ続けると、3回目の挑戦で編集部と話すことができ、そして私が持ち込んだ企画はその週に『週刊文春』の会議を突破した。以降、たくさんの特集を執筆する機会をいただいた。今振り返ると、あのタイミングで電話をしなければ、やがて編集長が交代して私は『週刊文春』で書く機会は得られなかったと思う。また、『週刊文春』で書いた数々の記事が著書のスタートになったことを考えると、本を出せなかった可能性も高い。