「オールジャパン」のこだわりが計画の遅れを招く?

問題は、開発の頭となるオペレーター、その下につくエンジニアニング会社、掘削会社、海洋構造物建設会社、輸送オペレーターなどの体制をどう組むか、であろう。一般的に考えればトップに海洋石油・天然ガス開発のオペレーター実績がある石油会社が座り、エンジニアリング会社、掘削、海洋構造物関連会社などと連携しつつ、陸上パイプラインを保有するガス会社も含め、川上から川下まで一体的に開発を進める絵が浮かぶ。「オールジャパンで挑戦しよう」と掛け声も響いてくる。ところが、だ。イメージと現実には恐ろしいほどのギャップがあった。

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「第16回パッケージ型インフラ海外展開関係大臣会合」に提出されたclarkson資料を基に編集部作成。

じつは、これまで述べてきた海洋資源開発の分野で、日本は韓国や中国、シンガポールに大きく水をあけられている。後塵を拝せないほど距離が開いているのだ。「第16回パッケージ型インフラ海外展開関係大臣会合」に提出された資料によれば、海洋構造物の建造シェアは韓国が約4割、シンガポール、中国がそれぞれ14%、ブラジル9%ときて、日本はわずか1%。過去10年間、日本のメーカーは1基も海底の構造物を建造していない。造船技術があっても本格的な海洋構造物は造れない。大水深での生産設備の係留や設置工事の実績もない。そもそもこれまでは日本周辺には海洋開発の案件がなかったのである。

四半世紀前、MODECは、そんな日本に見切りをつけ、海外で石油メジャーなどの下に飛び込んだ。ときには徹底的にシゴかれて、浮体式構造物の建造、操業で独自のポジションを獲得した。その海洋開発の最前線に立つ島村氏は「オールジャパンにこだわったらガラパゴス化するばかり」と警鐘を鳴らす。

「日本は海洋開発で世界に負けている部分があります。まず敗北を認め、その部分について海外に謙虚に学ばねばなりません。オールジャパンにこだわって、政府資金に頼りきり、うちわだけでメタンハイドレートを開発しようとしたら失敗するでしょう。技術は孤立し、外で通用しなくなる。海外にはいろんな海洋開発関連企業があります。大事なのは、開発プロジェクトの中核に日本側が座り、足りない部分は海外企業と連携すること。排外主義は退歩につながります」

プロジェクトの中核、つまり「コア」を日本企業が押さえ、海外企業を組み合わせて開発をすすめる。オールジャパンではなく、「コアジャパン」。そんな発想に立てるか否か。海洋開発と謙虚に向き合う意識改革ができるかどうかが、今後の商業化の鍵といえそうだ。

山岡淳一郎(やまおか・じゅんいちろう)

ノンフィクション作家
1959年、愛媛県生まれ。出版関連会社、ライター集団を経てノンフィクション作家となる。「人と時代」「21世紀の公と私」を共通テーマにエネルギー資源と政治、近現代史、医療、建築など分野を超えて旺盛に執筆。主な著書に『気骨 経営者 土光敏夫の闘い』(平凡社)、『原発と権力』(ちくま新書)、『田中角栄の資源戦争』(草思社文庫)、『後藤新平 日本の羅針盤となった男』(草思社)、『成金炎上 昭和恐慌は警告する』(日経BP社)、『放射能を背負って』(朝日新聞出版)、『国民皆保険が危ない』(平凡社新書)ほか多数。