深海のガスをどう掘り続けるか

三井海洋開発・島村好秀常務執行役員

世界全体を眺めてみると大水深開発は石油が主体で、天然ガスは停滞気味だ。ブラジルの大水深開発も石油に比べてガスは進んでいない。背景には陸上のシェールガス開発の加速、リ―マンショック前にバレル150ドル近くまで上昇した原油価格の下落などがあるというが、理由はそれだけだろうか。大水深ガス田の開発遅滞は、メタンハイドレートの商業化にとって由々しき問題と映るのだが……。MODECの海洋資源開発をけん引する島村好秀常務は、ガス開発の遅れをこう語る。

「水深2500メートルを超える海域でも石油開発は進んでいます。が、確かに海底のガス開発は石油開発のスピードと比べると遅れている。経済状況の変化もさりながら、遅れているのは、出てきたガスをどう処理し、いかにして陸へ輸送するかという難題が横たわっているからです。ガスはそのままでは船上に溜められません。パイプラインで陸上に送るか、液化して送るか、コスト計算も難しくてなかなか結論が出ないのです。メタンハイドレートの開発も同じ課題に突き当たりますよ」

陸から離れた深海底にパイプラインを敷設してガスを陸へ送るには莫大な費用がかかる。一方、洋上でガスを液化する「FLNG(浮体式液化天然ガス生産設備)」は技術的に確立しているものの、気体を液体にし、陸に運んでふたたび気体に変えて送るとなれば、エネルギー効率は著しく落ちる。輸送の形態は、気体がいいのか、液体がいいのか。大水深開発のオペレーターたちは頭を悩ませている。

数年前、MODECも自社で技術開発し製品化したFLNGをひっさげてブラジルの案件に挑んだ。水力発電が主体のブラジルでは、官民とも乾季と雨季の発電量の差をなくしたがっている。乾季にLNG火力で発電できれば差は縮まる。FLNGのメリットが生きると期待された。しかし最終的にはブラジル内のパイプライン派が開発の主導権を握り、FLNG導入は見送られた。

翻って、日本の渥美半島、志摩半島沖50キロの第二渥美海丘で産出したメタンハイドレートのガスは、どのように輸送すればいいのだろうか。島村氏は「メタンをメタノールに変えて液化するようなGTL (gas to liquids)や、NGH(Natural Gas Hydrate)でもう一度ハイドレートにして輸送する方法もある」と指摘する。

MH21は、産出したガスの処理、輸送方法を、まだ明らかにしていない。目下、研究者が懸命につめているようだが、関係者の間からは「パイプライン説」が聞こえてくる。対岸には陸上パイプラインが走っており、つなぎさえすればガスは利用できる。東部南海トラフには日本の天然ガス消費量の11年分が眠っている。それを「担保」にすれば巨額の敷設費も捻出できる、との見立てだ。不確定要素は多いが、技術的に超えなければならないハードルは見えている。