NHKのネット記事は「民業圧迫」なのか
「政治マガジン」は、上記の熊田氏の記事によれば、日本政治を題材に、「知られざる政治決断の背景を描いたスクープや、通常の政治ニュースでは報じられない背景を深掘りした記事を、読みやすく配信していました」。
ただ、2024年3月に「政治マガジン」は更新を停止している。そして、今年10月1日からウェブサービスを一新したのにあわせて、NHKは過去の記事をすべて削除している。この点も含めて、SlowNewsの熊田氏は、「今後のメディア全体に関わる大きな問題」だと訴えている。
なぜ、そこまで熊田氏は大きくとらえるのだろうか。
その理由は、この稲葉発言に至る経緯にあるのではないか。熊田氏が整理しているように、2018年に始まった「政治マガジン」は、日本新聞協会や民間放送連盟(民放連)から「民業圧迫だ」と言われてきた。
NHKが受信料収入や、国からの予算(税金)をもとに集めた情報を、無料でウェブに提供するのは、まかりならん。そんな理屈というか、屁理屈というか、批判を浴びせてきた。
「ネット業務必須化」の裏で起きたこと
なるほど、新聞社のオンラインコンテンツを有料で購読する読者は多いとは言えない。公表はされていないが、いや、公表しない時点で、少ないと想像するほかないが、米国のニューヨークタイムズのデジタル購読者数=1176万人には遠く及ばないのだろう。
新聞社も民放も、どちらも、無料で大量のニュースをウェブ上に配信しているものの、それはあくまでも民間の自由競争の一環であり、国費を投入されているNHKを同列に扱ってはいけない、そんな言い分を端的にあらわそうとしたのが「民業圧迫」だった。
その後の紆余曲折を経て放送法が改正され、NHKの「ネット業務必須化」が定められる。ただ、ネット上に配信できるのは放送と同じ内容に限られている。だから、「政治マガジン」などのネット発のコンテンツは更新を停止するだけではなく、全部消去しなければならなかった。
しかし、「政治マガジン」は本当に「民業圧迫」だったのだろうか。それほどの影響力を持っていたのだろうか。

