オールドメディアの「護送船団方式」

他方で、NHKがほぼ撤退したと言えるウェブでは、その分のPV(のおこぼれ)を新聞社や民放が分け合う。そうすれば、新聞も民放も業務を続けられる。

これぞ「護送船団方式」にほかならない。かつて日本の金融行政を指したことばで、行政(旧・大蔵省)の指導のもと、銀行も証券会社も、みんな守られた船に乗って、みんなで抜け駆けも落ちこぼれもせず、生き残る。そんなぬるま湯というか、欺瞞に満ちた仕組みをあらわすことばである。

稲葉会長が、「ちょうどネットの社会で」と限定しているのが興味深い。彼によれば、テレビ視聴者やラジオ聴取者とは異なり、「ほんとの情報か、偽の情報か、よくわからないんだけどおもしろい。というのがもてはやされるような、そういう傾向がなかったか」と疑うような、そんな「社会」なのである。

そこには護送船団方式が通用しないから、もう撤退すれば良い。「ネット社会」ではない、現実の社会に生きる人間から、裁判に打って出ても、ともかく受信料を集めるのだ、そんな決意が込められているのではないか。

「公開質問状」に対してNHK広報局は…

先に挙げたSlowNewsの熊田氏からの「公開質問状」に対して、NHK広報局は「稲葉会長の発言の真意は、これまでのサイトの情報が正しくなかったということではありません」とした上で、「政治マガジン」などの「理解増進情報として配信してきたコンテンツは、真偽が不確かな情報があふれるネット空間において、確かな情報を提供する役割を果たしてきましたが、今後は新たな枠組みのもとで、同様の役割をよりしっかりと果たしてまいります」と答えている(〈NHKが稲葉会長発言を全面撤回!「政治マガジンは確かな情報を提供してきた」ならば会長は国民と職員に謝罪し、速やかに議事録の訂正を〉SlowNews、2025年12月4日11時30分配信)。

記者会見するNHKの稲葉延雄会長=2025年10月16日午後、東京都渋谷区
写真提供=共同通信社
記者会見するNHKの稲葉延雄会長=2025年10月16日午後、東京都渋谷区

味わい深いというか、病膏肓やまいこうこうに入る、という以外に表現が見つからない。なぜなら、このNHKの回答でさらに、新聞も民放も報じないと思われるからである。今回の稲葉会長の発言については、熊田氏がSlowNewsで報じているほかに、ほとんど他社での報道が見当たらない。