新聞の主張は「因果関係」を証明できない

新聞社や民放の言い分は、にわかには首肯しがたい。「民業圧迫」については、「その裏付けになるデータは存在していませんでした」と熊田氏が指摘するだけではなく、もとより、因果関係を証明できないのではないか。

風が吹けば桶屋が儲かる、とまでは言えないとしても、仮に、「政治マガジン」など、NHK NEWS WEBに掲載していた内容が、多くのPVを集めていたとしても、どこまで新聞社や民放から奪ったのかは、明らかにしがたい。

わかりやすくするために、飲食店で想像してみよう。繁盛していたラーメン屋よりも、隣に新しくできた同業他店のほうが客を集めたとしても、因果はクリアにはならない。新しい店をめがけて来た客がいるかもしれないし、前からある店が飽きられただけかもしれない。

一見するとわかりやすそうな飲食店でさえ、「圧迫」したかどうかは決められない。それなのに、インターネットサイト、それも、ニュースについて、NHKなのか、新聞・民放なのかを、どんな基準で選んでいるのか、その影響については、わからないのではないか。

それなのに、いや、そんなあいまいな状況だからこそ、NHKは「民業圧迫」批判を唯々諾々と受け入れたのではないか。ほかならぬNHKにとってこそ、この非難は渡りに船だったのではないか。

受信料の支払い督促を「10倍超」に拡大

それは、時あたかも、この稲葉会長発言にある「10月1日からやっているNHKの、ネット社会に対する配信業務」(NHK ONE)と同じ日付に設置した「受信料特別対策センター」にあらわれている。これは、受信料の支払い督促強化のための新しい組織であり、ここにNHKの真意があるのではないか。

2025年10月1日からインターネットサービス「NHK ONE」を開始
画像=プレスリリースより

朝日新聞の宮田裕介記者の「NHK、受信料の未払い世帯に督促強化へ 民事手続きの新組織を設置」と題した記事によれば、「支払い督促を今年度下半期だけで昨年度の10倍超に拡大する予定」だというから、力の入れ具合が違う。

読売新聞によれば、NHKの「(受信)契約総数は、過去最高だった(20)19年度末の4212万件からコロナ禍などで減り始め、(2025年)9月末現在、4043万件」だという。その反面で、契約しているのに1年以上滞納している不払い(未収)の契約者数は右肩上がりで、2019年度の72万件から5年間で2倍以上の174万件と、25人に1人は支払っていない。

受信料収入は、2023年10月に1割値下げした影響もあり、2018年度末の7122億円をピークに、2024年度には5901億円に下がっている。

NHKが「政治マガジン」をはじめとするウェブ業務を縮小する。それに伴いテレビやラジオの放送業務に注力する。そのためには、原資たる受信料を少しでも増やさなければならない。そこで「受信料特別対策センター」を作って、簡易裁判所に申し立て、差し押さえや強制執行、さらには民事訴訟にも踏み出す。