謎の「30万滞納ルール」があったが…

私が市長になった当初、明石市には「30万ルール」という不思議なルールがありました。

これは、「市営住宅の家賃を滞納している人に対して、滞納金額が30万円になってから督促の声をかける」というものでした。市営住宅の家賃は、月に1万円から2万円程度です。30万円まで滞納しないと声をかけないということは、つまり1年も2年も滞納してようやく、「あなた、すでにこんなに滞納していますから払ってください」と声をかけるということです。

しかし、月々の1万円すら支払えずにいる人が、いきなり30万円もの滞納金を請求されたとして、「はい、そうですね」と払えるものでしょうか。どうしても払えないとなれば、立ち退きも含めたシビアな現実が待ち受けています。

そうであれば、早い段階で、「先月分が滞納になっていますよ。少し飲みに行くのを我慢して、今月は2カ月分を払えますか。そうでないと先々でもっと苦労することになりますよ」と声をかけてあげた方が、本人や家族のためになるのではないでしょうか。

そう思った私は、「もっと早い段階でフォローしたほうがいいんじゃないの?」と担当部局に言いました。ところが職員は「お金を払えなんて軽々しく声をかける方が市民に失礼だ」という考えでした。

しかし、市民に失礼などというのは建前で、厄介そうな市民にはできるだけ関わりたくない、事なかれ主義で問題は先送りしたいというのが本音だったのではないかと思われます。

「取り立て」ではなく「きめ細かいフォロー」

担当者が動かなかったので、私は弁護士職員を担当に変えて、家賃を1〜2カ月滞納したら、すぐに督促の通知を送ってもらうようにしました。「家賃を滞納されているので早めにお支払いください」と弁護士から通知が送られてくると、滞納していたほとんどの人は、すぐに払います。その結果、明石市では市営住宅の家賃滞納が大幅に減りました。

私は、何がなんでも滞納者から取り立てろと言いたいわけではありません。滞納している人には、きめの細かいフォローが大切なのです。クビが回らなくなるまで放置するのではなく、困難を抱えていそうな人の状況を早めに把握し、必要に応じて福祉の窓口につなぐ。これも市役所の職員の大切な仕事です。

泉房穂『公務員のすすめ 世の中を変える地方自治体の仕事』(小学館新書)
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生活が立ちいかなくなっている市民には、生活保護などの受給につないで生活の立て直しをバックアップする。それほど困窮していないのであれば、立ち退きなどの深刻な事態に陥ることのないよう、家賃を後回しにせず支払うように促していく。

ところが、当時の明石市には、特定の議員に頼めば税金や保険料を滞納していても督促されずに済むというような、極めてアンフェアな口利きさえ存在していました。市役所の職員も、議員との軋轢あつれきを恐れて、滞納を見て見ぬふり。市民のみなさんから預かった大切な税金を、市民社会へ適切にお返ししていくべき市役所として、あってはならない「忖度」です。

私はそうした忖度はすべて無視して、滞納した人には平等に督促状を送り、必要に応じて弁護士職員を動かし、きめ細かくフォローしながら回収率を上げていったのです。

(初公開日:2025年11月10日)

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