中央大学教授 山田昌弘氏

人間はそもそも、究極的に何に幸福を感じる生き物なのか。それは他者からの「承認」なのです。今までの日本の社会システムでは、「身近な人や社会からの承認」=「幸福」という方程式が成り立っていました。それが今、大きく変化しています。

かつては会社の中で真面目に働き、順調に出世していくということが日本男性の幸福の源泉でした。年功序列・終身雇用という日本型雇用システムに守られ、多くの人が会社と社会での承認を得ていた。会社からもらえる安定した給料で家や車を買い、専業主婦の妻と子供を養いさえすれば、家事や育児をしなくても、家庭での承認を得ることができました。

これが、現在60代以上の人たちが描いた「幸福の物語」です。会社での承認に家族の承認が自動的についてきたのです。しかし、今の30代、40代はもちろん、50代前半くらいまでの人たちが、この物語の中に幸福を見出すことは、すでに難しいでしょう。旧来の会社システムが崩れ、大企業に勤めていてもリストラや減給、倒産といったリスクが降りかかる時代となりました。

大学を卒業し、普通に勤めてさえいればそこそこの地位まで昇進して定年退職できた時代は終わったのです。同じ会社に所属していても、昇進などの格差があり、比較的早い時期でそれがはっきりとわかってしまう。「あなたが必要だ」と会社に定年までいさせてくれるかどうかすらわからないのです。よほど特殊な技能の持ち主なら、「会社に所属している自分」でなくなっても、まだ安心度は高いでしょう。しかし所属を失ったら誰も振り向いてくれない人は、今後大変です。

では家庭における承認についてはどうでしょう?

昔はたとえ窓際族になって、会社での承認を得られなくても、ある程度の給料はもらえましたし、稼いでさえいれば、妻や子供から承認や尊敬を受けることができました。しかし、今は家庭に参画しないお父さんは「大切な人」「必要不可欠な人」とは言われません。今はよくても、将来、熟年離婚や介護してもらえないといった危険が高まるでしょう。