コロナ禍でも少しずつ店舗数を増やしていた
コロナ禍の厳しい環境下、多くの居酒屋チェーンは店舗数を大幅に減らしたり、異業種に転換したりすることで生き延びることを選択した。鳥貴族はコロナ前こそ店舗網再構築中だったが、2019年7月629店⇒2022年7月622店とわずかしか閉店していない。それどころか、コロナ禍にやきとり大吉を買収、店舗網を一気に拡大したという経緯があり、今に至っている。
串カツ田中はコロナ禍でも店舗数を少しずつ増やして、今の売上200億円の基礎を築いた。コロナは一過性のものであり、必ず居酒屋が必要とされる時代がまた来るという先読みがこうした結果を生んだ。個人的には、これこそが経営者の力量であると思っており、この業界での両社の今を作った背景であると思うのである。
こうみると強気一辺倒な社風をイメージしてしまうかもしれないので、もうひとつ感想を付け加えておくと、串カツ田中は成長加速のため、フランチャイズ(FC)も活用した店舗網増強も行ってきたが、その加盟店拡大姿勢がかなり慎重なように見えるということだ。
かなりまともなFCチェーンを展開
一般的にFC制の外食チェーンは、加盟店を急速に増やすことで、加盟店からのフィーを当てにして出店スピードを加速させるものなのだが、この会社はそうはしない。2022年12月150店だったFC店が、2025年10月で165店になっていること自体、穏やかなペースである。それ以上に、この間のFC純増は15店、に対して直営店からFCに譲渡された店が17店ということに感心した。
ふつうは新たな場所をFCにどんどん出店させるチェーンが多い中、この会社は直営で出して実績を確認した後で、加盟店に譲渡する店が多いということであり、これなら加盟店が判断を誤る可能性は大幅に低下する。つまりこのことが示すのは、かなりまともなFCチェーンだということである。
串カツ田中が、イタリアンチェーン「ピソラ」(約60店舗、売上72億円)を買収することを公表して以降、その投資額や資金調達方法が嫌気されて、株価が落ち込んだらしい。確かに純資産32億円ほどのこの会社にとって、95億円のM&Aはリスクを伴うことは間違いないだろうが、こうしたM&Aを成功させていくことが、さらなる成長の基盤となることは間違いない。
業態陳腐化が大きなリスクである外食チェーンでは、M&Aによる多様性の拡張は欠かせない。この会社が外食大手となっていけるかどうかは、ピソラの扱い方を見れば見えてくるのだろう。ただ、クレバーなこの会社はきっとうまく次の段階に進むであろうと大いに期待している。

