ヘルシーな「マクドナルド」失敗の理由

かつてマクドナルドは、健康志向に応えるべくヘルシーメニューを導入したものの、結果は思わしくありませんでした。なぜ「求められた商品」が売れなかったのでしょうか?

KEYWORD→意思決定

アンケート結果を信じすぎた戦略ミス

かつてマクドナルドは、健康志向の高まりに応える形で、サラダやフルーツヨーグルトなどのいわゆる「ヘルシーメニュー」を導入しました。その背景には、「もっと野菜を摂りたい」「健康的な選択肢を増やしてほしい」といった、消費者アンケートの回答結果がありました。

こうしたメニューの導入は、一見すると、企業としては顧客ニーズに基づいた正しい判断に見えます。しかし、フタを開けてみると、これらの商品はあまり売れず、結果的に定番メニューの売上に遠く及ばないまま姿を消してしまったのです。

【図表】アンケートに応えたマクドナルドの失敗
出典=『すぐに使えるビジネス教養 マーケティング』(フォレスト出版)

ここに潜んでいたのは、人間の「言っていること」と「実際に選ぶもの」との乖離です。人は質問されれば理性的に答えようとしますが、実際の購買行動では、直感や欲望に従うことがほとんどです。つまり、アンケートという「理性の声」を信じすぎたことが、マクドナルドの誤算だったのです。

人は合理的には答えるが、非合理に行動する

行動経済学では、私たちの意思決定には「システム1(直感的思考)」と「システム2(論理的思考)」という2つのモードがあるとされます。アンケートに答える場面では、多くの人がシステム2を使って、「正しそうなこと」「理想的なこと」を語ります。

だからこそ、「もっとサラダがほしい」といった声が上がるのです。しかし、実際にマクドナルドへ行くときには、急いでいたり、空腹だったり、ストレスを感じていたりと、非合理な条件がそろっています。

【図表】人は2つのシステムで考える
出典=『すぐに使えるビジネス教養 マーケティング』(フォレスト出版)

そんな場面で発動するのは、圧倒的にシステム1。脳はなるべく早く高カロリーで満足感の高いものを求め、理性的な判断は後回しになります。

その結果、手に取るのはバーガーやポテト。ヘルシーな選択肢は、気づかないうちに選択肢から外されてしまうのです。マクドナルドの失敗は、顧客の「日常の脳」を見誤ったことにあります。

「言っていること」より「していること」を見る
平野 敦士カール監修『すぐに使えるビジネス教養 マーケティング』(フォレスト出版)
平野 敦士カール監修『すぐに使えるビジネス教養 マーケティング』(フォレスト出版)

行動経済学の重要な示唆は、「人は自分の行動を説明するのが苦手」という点にあります。アンケートでの回答やインタビューの声は、あくまで「自分がそうでありたい」という願望の表れに過ぎないことも多いのです。

マクドナルドのようなファストフード店においては、購買の多くが衝動的であり、無意識の判断に依存しています。例えば、カウンター前で目に入ったメニュー、匂い、列の動き――。そういった外部の要素が消費者の選択を左右しているのです。このような場面では、「実際に消費者がどう行動しているか」を観察することこそが真のインサイトにつながります。消費者の発言を信じすぎるのではなく、リアルな行動データと向き合う姿勢が、次の打ち手を誤らないための鍵となるのです。

【関連記事】
パンと白米よりやっかい…糖尿病専門医が絶対に飲まない"一見ヘルシーに見えて怖い飲み物"の名前
まずは「コップ一杯の水」を飲むだけでいい…大学病院医師「全臓器をボロボロにする悪玉血液から体を守る方法」
「うちは紙ストローは作りません」岡山の日本一のストロー会社が「脱プラ運動」に真っ向から対抗した結果
だから日本人の「百貨店離れ」が進んでいる…三越伊勢丹HD元社長がルイ・ヴィトンを絶対に入れなかった理由
大谷翔平でも八村塁でも大坂なおみでもない…アメリカでもっとも知名度が高い日本人アスリートの名前