私にも辛い経験があります。私は、5歳のときに「ダライ・ラマ14世」に任じられ、チベットの首都ラサに移り住みました。それから10年ほど後の1950年、中国の人民解放軍が突然、東チベットに侵攻してきます。

高野山大学での法要後、福島などの被災地へ向かった。

私は16歳でチベット政府の全権を担うことになりました。私は中国側となんとか協力関係を築こうと試みましたが、日に日に危険が迫ってきました。ついに、1959年3月17日、私はラサを脱出せざるをえなくなったのです。

脱出の日、私は周囲の僧侶や友人と密かに出立しました。その2日後、中国軍による大規模な襲撃があり、私の親友を含めた多くのチベット人が亡くなったのです。今日でも、チベットでは困難な状況が続いています。

こうした悲劇は、必然的に大きな悲しみを、私にもたらしました。しかし、私は悲しみを内面の強さに変えることができたのです。もちろん、それには叡智がとても役に立ちましたし、もう1つ「自信」という要素も加わっています。

日本の人たちは思い起こしてください。第2次世界大戦で、ヒロシマとナガサキは核攻撃を受けました。大規模な破壊です。それだけでなく、国土のいたるところが焼け野原となったでしょう。

しかし、あなたたちやあなたたちの親は、その破壊の灰の中から立ち上がったのです。そして日本を再建させたのです。あなたたちにも、その精神はあります。自信を失わず、前を向きなさい。悲しみについて考えすぎてはいけません。悲しいことは、もう終わりです。前を向いて懸命に働きなさい。

覚えておいてもらいたいのは、知恵や(自信というような)心の強さを獲得できる最大の機会は、おおむね最大の苦境にあるときだということです。

私たちチベット難民は、亡命直後にたいへんな状況に陥りました。でも、それを乗り越えた人々は、みんな精神的に強く、前向きで、決してくよくよしません。これは、誇りを持って断言できます。逆に、恵まれた境遇にあった人は、少しの逆境でもすぐに希望を失い、しょげ返ってしまうものです。