ガラスの天井

2025年10月21日は日本政治の歴史に刻まれる日となった。

この日、3カ月の政治変動の荒波を経て、自民党の高市早苗新総裁が、第104代の内閣総理大臣に指名された。

女性の首相は憲政史上初めてのことだ。日本政治の厚いガラスの天井がついに破られたと、世界のメディアが速報し、国内でも初めての女性首相誕生というニュースは、好意的に受け止められた。高市新首相が積極財政論者であることも市場が好感して、日経平均株価は史上最高値の5万円まで迫る高値をつけた。果たして高市ブームは起きるのだろうか。

会談に臨む(右3人目から)高市早苗首相と日本維新の会の吉村洋文代表、藤田文武共同代表ら
写真提供=共同通信社
会談に臨む(右3人目から)高市早苗首相と日本維新の会の吉村洋文代表、藤田文武共同代表ら=2025年10月21日午後4時19分、首相官邸

いばらの道

衆院本会議場で、首班指名選挙の結果が事務総長に読み上げられ、高市票が過半数を超えたことが分かると同僚議員らからは「おおー」という歓声があがった。だが、高市新首相の表情は、硬く強張ったままだった。

周りの議員から拍手と声援を送られて、ふと我に返ったように口元に微笑みを浮かべたが、それは高揚感や緊張感、というよりも安堵と不安が入り混じったようなぎこちない笑顔だった。維新との連立合意にこぎつけ、首班指名での勝利は得たものの、あいまいな内容が多いその合意を約束通り実現するには、他の野党とも協議をしながら、今後の国会で具体化していく必要がある。消費税減税にしても政治とカネの問題にしても、少数与党のままの現状では、とてもスピード感を持って仕上げることはできない。

だが、思うような政策実現が進まなければ、内閣支持率は下落し、与党内の調整も簡単にいかなくなることは避けられない。だが、そのいばらの道をどんな重荷を背負ってでも進まなければならない。悲願の首相の座は何とか射止めたが、その地位を何としても続けなければならない。そんな悲壮な決意を秘めている、とさえ思えるような表情だった。

「石破政権以上に脆いかもしれない」

「自民党を良くしようとして、公明党を逃がして維新と組むという自民党にとって最悪の結果を作ってしまった。総裁選で高市さん以外に投票した者も含めて、どんなことになっても全て自民党員の責任だよ」

古参の自民党員は、高市新首相誕生で喜びに湧いているのかと思いきや、冷めた口調でそう言った。

「どんなことをしても総理になりたい高市さん、権力の座を手放したくない自民党議員、そしてこのまま消滅するくらいなら、与党になった方がマシだと思った維新の議員。それぞれの『我欲がよく』、つまり自分第一の欲が、高市総理を作った。しかし誰も本気で高市総理を支えようという者がいない政権は、数が増えたと言っても石破政権以上に脆いかもしれない」

確かに、首班指名では、維新を除名された無所属議員を一本釣りし、参院ではどういうわけか「NHK党」で一人ポツンといた議員までかき集め、衆院では何とか過半数を超えて一回で首相指名を勝ち取ることができた。参院は決選投票にもつれたが、それでも高市指名に漕ぎつけた。