調査では聞けなかった本音が、後から出てくるケースは当たり前のように起きているという。

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調査と実態のギャップ

「発売までには、死ぬほど調査をしますし、社内で決められたスコアも必ずクリアしています。8~9割の人が『買いたい』と答えているのに、実際には、そんなには買ってもらえない。こんなことは日常茶飯事ですよ。調査で『買いたい』と答えるのには財布は痛みませんからね」

消費者の心のゆらぎに右往左往する一方で、マーケッター自身もゆらいでいるとルディー氏は指摘する。建前で生きているのは何も消費者だけではないというのだ。

「複数のサンプルについて検討する会議で、直感的にAがいいと思っても、なぜいいのか論理的に説明できない場合、説明しやすいBを推してしまうんです。会議では論理的でなければならないという建前があるから。しかし、それではいつまでたっても消費者の立場にはなれません」

花王の会議では、消費者1人ひとりの声を徹底的に重視し、マーケッターの建前先行を防ぐ手立てを講じている。たとえば緑茶「へルシア」開発のときがそうだったという。

「開発段階の消費者調査では、こんな苦いもの飲めるか! と言われて散々な結果でした」(宮脇氏)

へルシアは体脂肪対策としてカテキンを1日540ミリグラム摂取するコンセプトで開発された。当初はいまのように苦み成分を除去する方法がなかったので、その苦みが消費者調査で不評だったのだ。しかし花王は消費者の付帯意見に目を向けた。

「当社のマーケティング会議では、個別の消費者が何を言っていたか、自由回答をオリジナルのまま伝えます。へルシアのときは『苦いけど、何だか体に効きそう』という意見にヒントがありました」

苦みが案外消費者にアピールするのではないか。確証はなかった。しかし発売後、コンスタントに年間300億円を売り上げるという考えもしなかったヒット商品に育った。多くの消費者に苦みが嫌われているという説明しやすい論理を選んでいたら、ヒット商品は出なかった。