「パッション(情熱)」と「チームワーク」がキーワードだった。「いいチームだった」と荒木田は述懐する。

「全員がどうしても東京にオリンピックを持ってきたいんだという熱い思いは伝えられたかナ、と思う」

荒木田は「スポーツの力」を信じている。とくに11年の東日本大震災のあと、アスリートの果たした役割を強調する。何人もが被災地を訪ね、「逆境に打ち勝つ力」をサポートした。

JOCのアスリート専門部会で選手のアンケートをとったことがある。選手から被災地体験のメールが届いた。〈被災地に支援にいったのに、逆に頑張れと言われてうれしかった〉〈海外からも復旧・復興への祈りが届いていた。我々は世界に“ありがとう”という感謝を示さないといけない〉。

深夜、パソコン画面のメールを見て、なぜか荒木田は泣きそうになった。

「わたしは東京のWHYは“ありがとう”だと思う。日本は(64年の)東京五輪で大きく変わった。また震災で世界から応援や祈りをもらった。そのお礼や“これだけ元気になったんだ”と感謝の気持ちも込めて世界に何かを発信すべきだと思う」

6月中旬の国内オリンピック委員会連合(ANOC)総会では、東京は女子体操の田中理恵がプレゼンに加わった。イスタンブールの反政府デモの騒動を意識してか、東京は「安全」を強く訴えた。7月上旬のテクニカルブリーフィングでも手堅い計画とアスリート・ファーストを前面に押し出した。

評価委員会のリポートも公表された。たしかにイスタンブールの勢いは衰えた感があるけれど、IOC委員の投票行動はよくわからない。マドリードの抱える経済問題も同様で、五輪開催は7年後、投票では直近の問題にはこだわらないのがIOCの慣例である。