私たちの一日には、多くの「隙間時間」が潜んでいる。グロービス経営大学院講師の本山裕輔さんは「この積み重ねが人生そのものを変えかねない力を持っている。時間をうまく使えないのはその人が怠惰なせいではなく、私たちの脳のある特性が影響している」という――。

※本稿は、本山裕輔『仕事ができる人がキリの悪い時間にやっていること』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。

段ボールを持った男
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人間の脳は「隙間時間」の活用が苦手

「隙間時間を有効活用しましょう」

よく耳にするアドバイスですが、『仕事ができる人がキリの悪い時間にやっていること』の「はじめに」でも触れたように実はこれは非常に困難なことなのです。

なぜなら、人間の脳は根本的に隙間時間を有効活用できるように設計されていないからです。

その理由は、主に以下の4つに集約されます。

1 「スイッチングコスト」がかかるから
2 「予期的不安」で頭がいっぱいになるから
3 「時間のブロッキング」に失敗するから
4 選択肢が多すぎるから

まずはそれぞれについて、詳しく見ていきましょう。

「スイッチングコスト」とは、1つの作業から別の作業に切り替える際に、脳がスムーズに移行できずに生じる無駄な負荷のことです。

わかりやすくいえば、「頭の切り替えにかかる手数料」と考えてください。

「はじめに」で触れた、会議直後の20分間で資料作成に取り組もうとしても、PCの画面をぼんやり眺めるだけになってしまう現象も、まさにこのスイッチングコストが原因です。

会議で議論された内容がまだ頭の中で反芻はんすうされており、すぐに別のタスクに意識を切り替えることができないのです。

実験で明らかになった脳の特性

認知科学の分野では、私たちの脳があるタスクから別のタスクに意識を移す際に必ず一定の時間とエネルギーを消費してしまうことが知られています。

この現象を明確に示した有名な実験があります。

1995年に心理学者のロジャースとモンセルが行った研究です(※1)

※1 Rogers, R. D., & Monsell, S.(1995)Costs of a predictable switch between simple cognitive tasks.

実験の内容はシンプルでした。参加者はコンピューター画面を見ながら、2つの簡単な課題を行います。

・課題1 数字判断──「数字が偶数か奇数か」を答える
・課題2 文字判断──「文字が母音か子音か」を答える

例えば画面に「G7」という文字と数字のペアが表示された場合、数字判断の課題では「7」が奇数であることを、文字判断の課題では「G」が子音であることを答えるのです。

アルファベット
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実験は2つの状況で行われました。

・状況A 同じ課題を連続して実行(数字だけ、または文字だけを継続)
・状況B 数字課題と文字課題を交互に切り替えて実行